◎クローン病
急増したTNFα阻害薬の使用
二次無効例への対応が課題に

東京医科歯科大学の渡辺守氏

 「2002年にTNFα阻害薬が承認され、炎症性腸疾患の治療目標は、患者の『症状の改善』から潰瘍や炎症を治す『粘膜治癒』へと大きく変わった」と話すのは、東京医科歯科大学消化器病態学教授で潰瘍性大腸炎・クローン病先端治療センター長の渡辺守氏だ。

 40年にわたり、炎症性腸疾患の治療に携わってきた北里大学北里研究所病院・炎症性腸疾患先進治療センター長の日比紀文氏も、「かつては治療に難渋し、病勢の悪化で入退院を繰り返していたクローン病の患者さんが、TNFα阻害薬を使えるようになり、約8割は外来治療のみで症状をコントロールできるようになった。その結果、患者さんのQOLは大きく改善し、多くの方がごく普通の生活を送れるようになった」と振り返る。

北里大学の日比紀文氏

 クローン病の治療では早期から、TNFα阻害薬を用いて病気の進行を止めてしまおうとする“トップダウン療法”の考え方が登場し、現在では主流となりつつある。「実際に、ステロイドや免疫調整薬のAZA/6MPより先にTNFα阻害薬を使用して、良い成績が得られたとの報告もある」と渡辺氏。

 2010年には、新たなTNFα阻害薬であるアダリムマブも保険適用になり、現在、TNFα以外の新しいターゲット療法も開発が進んでいる。

 こうした状況の下で、炎症性腸疾患患者に対する生物学的製剤の使用は、増加の一途をたどっている。渡辺氏によると、クローン病に対するTNFα阻害薬の使用は世界的には15%程度だが、日本は約45%と世界で最も多い状況だという。

 「専門施設では、クローン病患者の半数に投与されているのが現状で、必要以上に使われているのではないか」と渡辺氏は話す。
 TNFα阻害薬の過剰使用を懸念する理由の一つは、寛解導入後に効果減弱などで使用できなくなる二次無効例が、徐々に顕在化していることだ。

 二次無効例の発症状況について、渡辺氏は「TNFα阻害薬はクローン病で劇的な治療効果をもたらす一方で、二次無効例の発生は、年に約10%とされ、10年で半分以上は効かなくなってしまうとみられている」と指摘する。

 日比氏も、「二次無効例に対しては、倍量投与や他剤へのスイッチングなどでなんとか対処しているのが現状だが、保険適用があるTNFα阻害薬の2剤だけでは十分に制御できず、既に次の手段がない難治例も出始めている。長期的に見たトップダウン療法の是非がまだ明確にはなっていない現段階では、クローン病の初発の軽症例にまでTNFα阻害薬を一様に使うべきではないだろう」と注意を促す。

 渡辺氏が班長を務める厚労省の「難治性炎症性腸管障害に関する調査研究」班が作成したクローン病治療指針では、中等症〜重症の患者に対し、まずは経口ステロイドを投与し、ステロイドの減量・離脱が困難な場合にはAZAを併用、そしてステロイドや栄養療法が無効/不耐な場合に、インフリキシマブあるいはアダリムマブを考慮するとしている(『潰瘍性大腸炎・クローン病診断基準・治療指針、平成25年度改訂版』より)。

 日比氏は、「クローン病の治療は、患者さん一人ひとりの病状に合わせて適切な治療法を選択することが基本となる。TNFα阻害薬を使用する際には、効果、副作用などに加えて、二次無効についても十分に患者さんに説明することが必要だ」と語る。

 渡辺氏は、「治療指針に従えば、TNFα阻害薬を使うべき症例は、重症のクローン病患者の6割くらいだろう。使用する場合にも、免疫調整薬を併用するなどして、二次無効にできるだけ移行しないように慎重に使うべきだ」と警鐘を鳴らしている。