実験動物を用いた基礎的な検討から、胃切除術施行後は腸内細菌叢の変化によって、肝臓の薬物代謝能が亢進することが明らかになった。胃酸分泌の消失によって消化管内のpHが上昇し、二次胆汁酸であるリトコール酸(LCA)を産生する腸内細菌が増加、そのLCAが腸から吸収され、肝臓で薬物代謝酵素の遺伝子発現を誘導するためという。星薬科大学薬動学の石井敬氏(現・東北薬科大学薬物動態学)らが報告した。

 まず石井氏らは、胃を全摘したマウスを用いて、肝チトクロームP450(CYP)の蛋白発現量の経時変化を追跡した。その結果、主要な薬物代謝酵素とされるCYP3A、CYP1A、CYP2C、CYP2Dの蛋白発現量が、胃切除12週後から有意に増加していた。

 胃切除後、消化管内pHの変化に伴いLCA産生菌(B. fragilis)が増えること、また肝臓でLCAは核内受容体PXRと結合して核内に移行しCYP3Aの遺伝子発現を亢進させることが、既に報告されている。石井氏らは、胃切除後の患者では増加した腸管内のLCAが腸から吸収され肝臓に移行し、PXRを活性化させて薬物代謝酵素の遺伝子発現を誘導していると推論した。

 そこで胃切除後のLCA産生菌量、大腸内のLCA量、肝臓におけるPXR発現量の経時変化を調べたところ、いずれの指標も胃切除12週後から有意に増加していた。主要なCYP分子種の蛋白発現も12週後から有意に増加しており、腸内細菌によって産生されたLCAが肝薬物代謝酵素を誘導しているという仮説と矛盾しない所見だった。

 これまで、胃切除後患者では薬剤が胃に滞留せず早く小腸に到達し吸収されることから、薬の効果発現が早まることは知られていた。だが、これは薬の作用全体からすれば大きな問題とは見なされておらず、胃切除後の患者に対する薬物治療に際し、特別な注意は払われていなかった。

 一方で薬物代謝能の亢進が顕著なら薬の効果が減弱する可能性があり、投与量の調節が必要となる。腸内細菌叢の変化が原因なので、プロバイオティクスの使用による正常な腸内細菌叢の維持も、対策として考えられるという。

 石井氏は「胃切除後は肝臓の薬物代謝能が亢進し、薬の効果が減弱する可能性のあることが分かった。今後は、臨床現場で実際に投与量の調節が必要な薬剤があるかを明らかにしていきたい」と話している。