関節リウマチは原因不明の炎症性自己免疫疾患であり、炎症による関節の腫れや激しい痛みを伴い、軟骨や骨の破壊、変形が進行していくことが特徴である。また、発熱や倦怠感、食欲不振などの全身症状も認められ、疼痛治療においては神経因性疼痛にも注意が必要である。


はじめに

 抗リウマチ薬の進歩、とりわけ生物学的製剤の導入は関節リウマチの治療に大きな変化をもたらした。この変化は大きく、例えば関節破壊を全てではないにしろ、かなり抑制できることが明白となった。しかし、これが全ての問題を解決したといえるのか、疑問がある。

 関節リウマチが炎症性疾患に分類されることは広く認識されており、炎症を止めることが治療の最も大切な目標であることは揺るぎない点である。しかし、一方で疼痛に対する対処も十二分に検討されるべきである。特に関節障害による機能低下、疼痛の発生はQOLの低下に直結する。持続する痛み症状は器質的変化を伴う慢性疼痛を誘発する可能性がある(図1)(参考文献1)。

 慢性的な疼痛は、QOLを低下させる。さらに慢性的な痛み状態は心理面にも深刻な影響を与えることが各種病態で示唆されている。事実、関節リウマチ患者においても疾患活動性指標や炎症指標と患者抑うつ度が関連することが報告され、この機能障害、疼痛症状が患者立脚型評価(PRO:patient reported outcome)に影響する。

 関節リウマチ治療が大きな進展を遂げ、極めて有効に炎症症状の抑制が可能となった。しかし、これは早期から適切な治療が行われた場合であり、長期罹患症例や薬物治療反応不良例では、痛みとそれにまつわる心因的な反応は過去のものではない。

関節障害、QOL障害と疼痛の問題

 生物学的製剤などの使用にもかかわらず、相変わらず患者に起こる関節障害は克服されずに就労を継続できないことが報告されている(参考文献2)。これは別に医療の提供体制や、先進国、開発途上国といった社会的な背景のみで説明できる要素ばかりではない。例えば高福祉とされる英国のデータにおいても同様な傾向がある。

 本当に関節障害が全て現在の薬剤で克服されているのであろうか。先進国の状況を集めて比較したものでも同様に、関節リウマチ患者にとっていまだに関節障害の発生、離職は現実の問題であることが読み取れる(参考文献3)。この離職に代表されるような状況が患者のQOLを著しく損なうこと、特にpsychological QOLは離職、失職により著しく低下することや、社会的な孤独感、抑うつの発生につながりやすいことは諸家の報告にある。この問題は現在の薬剤の使用方法により解決されるのか、それともやはり治療薬自体の限界の問題であるのか、いまだに決着していない。

 鋭敏かつ正確な病状判断と薬剤選択が必要とされる一方で、関節障害を持つ関節リウマチ治療では、疼痛症状をしばしば伴うことを理解した上で、慢性疼痛や抑うつ症状への進展を阻害するための治療介入が必要とされる。疼痛症状を伴う日常生活は確実にQOLを低下させる。同時に労働年齢層では就業継続を不可能とする。そのことがさらにpsychological QOLの低下につながり、抑うつ症状や社会的疎外感に結びつく可能性が指摘されている。

 いまだに関節リウマチ治療における疼痛対策は大きな課題との理解が必要である。一方、その疼痛の多くは機能障害と関連しているので当然、運動療法、理学療法、外科的再建術も含めて考慮される必要がある。

関節リウマチの疼痛症状と機序

 関節リウマチの疼痛症状は主には炎症や関節障害による直接的な刺激が侵害受容体を介した疼痛であるとされる。しかし、一方で神経因性疼痛と思われる症状を訴える患者も存在する。さらには、関節リウマチ患者には抑うつ症状、疲労感、不眠などを主訴とするいわゆる“慢性疲労症候群”様の症状も存在する。関節リウマチに伴う疼痛症状は非常に幅広く、そして症例ごとに異なる側面を持つことが特徴とされる。

 基本的に活動性関節リウマチは滑膜炎を伴い、そこではTNFα、IL-1などの炎症性サイトカインやIL-6が働き、炎症性細胞浸潤や滑膜増殖、破骨細胞活性化に関わることが知られている。これらのサイトカインは同時に関節リウマチ患者では滑膜細胞などに働き、神経成長因子(NGF:nerve growth factor)の産生亢進を起こす(図2)(参考文献4)。これが神経因性炎症により関節炎を悪化させること、そして神経終末ではTrk Aと結合し刺激を伝え、その結果、疼痛閾値低下に働くことが知られている。

 滑膜組織、関節包には多数の神経終末があることから、効率よく刺激を中枢神経系に伝達することができる。そこでの痛み閾値の低下は、より疼痛を誘発しやすいことは容易に推察できる。中枢神経系での変化についても動物実験で多くの検討がなされている。TNFなどの炎症性サイトカインやNGFの働きにより上行性刺激は増強されやすく、下行性抑制は働きにくい環境が中枢神経系でも作り出される。このような環境では痛みの閾値はさらに低下し、痛みの範囲は罹患関節をはるかに越えて拡大する。

 これら動物実験で見られるような反応がヒトにも起こり得る。特に長く疼痛症状が続いているような症例には、このような可能性を念頭に置いた十分な配慮が必要である。関節リウマチ患者における疼痛閾値低下は現在、過小評価されている可能性がある。例えば抗TNF治療薬を用いて劇的に症状が改善するばかりか、治療前のlow moodが活動的な生活に変わることを目の当たりにすると、薬剤の抗炎症作用を超えた働きを感じる。