ロコモティブシンドローム(以下、ロコモ)の認知度向上が「健康日本21(第2次)」に盛り込まれ、普及に向けた取り組みが加速している。ロコモ チャレンジ!推進協議会委員長でもある江戸川病院(東京都江戸川区)の泉田良一氏に、今後への意気込みと残された課題を聞いた。


泉田 良一氏
江戸川病院 慶友人工関節センター長 ロコモチャレンジ!推進協議会委員長

──まずは、ロコモ周知への取り組みの重要性をお聞かせください。

泉田 運動器に対する関心が高まってきた背景として、少子高齢化の進展と、いわゆる「2030年問題」が挙げられると思います。総人口に対し、65歳以上の高齢者が7%を超えると高齢化社会、14%を超えると高齢社会、21%を超えると超高齢社会と呼ばれます。わが国は1970年に高齢化社会、1994年に高齢社会、2007年に超高齢社会を迎えました。この間、出生率が低下を続けたため、総人口に占める高齢者の割合は急速に増加し、世界に類を見ない速度で高齢化が進んでいます。

 高齢化率は2030年頃に最大になると予想されており、2030年問題と呼ばれています。東京大学高齢社会総合研究機構「2030年超高齢未来(東洋経済新報社)」によれば、(1)総人口が1億1522万人と1千万人以上の人口減となる、(2)前期高齢者(65歳〜74歳)と後期高齢者(75歳以上)が総人口の12%、20%となる、(3)介護の必要性が高い後期高齢者が約2倍に増加する(後期高齢者の要介護者の人数は前期高齢者の約6倍)、(4)認知症高齢者が現在の2倍近い約600万人になる──などが想定されています。

 現状のままでは、2030年には総人口が減少し、高齢者が全人口の3分の1近くを占めるようになります。現在の医療体制では到底対応できませんから、医療や介護が受けられず、認知症や孤独死が放置される世界になります。介護費用は2012年に総額8.9兆円でしたが、後期高齢者の増加に伴い2倍以上になると推定されています。この社会的な負担増について今から検討し、負担軽減を図る必要があるのは自明のことでしょう。

ロコモの認知による運動器障害の減少に期待

 そこで、運動器の重要性を世間に認識してもらうとともに、運動器障害を減少させようと、日本整形外科学会では2007年にロコモの概念を提唱しました(図1)。例えば、男性が要介護となる大きな要因の1つである脳卒中に関しては、アスピリンの予防投与などの対策が既に始まっています。女性においては変形性関節症と骨粗鬆症が要介護となる重要な要因ですから、同じように予防に向けた取り組み、すなわちロコモ対策が必要だと考えています。

 ロコモの重要性が一般に認知され、その結果として積極的なスポーツ参加などの行動変容が起これば、運動器の健康が保たれることによって、運動器疾患が原因となる要介護人口の減少が期待できます。このような観点から、厚生労働省(以下、厚労省)は、2012年に開始された「健康日本21(第2次)」において、ロコモの国民への認知度を10年後に80%まで向上させるという数値目標を設定しました。

──ロコモの認知度は高まってきていますか。

泉田 2012年2月に行われた8000人超規模のインターネット調査では、ロコモの認知度は現在参考値として採用されている17.3%でした。2013年3月に再調査を行ったところ、26.6%と、短期間で約10%の上昇が認められました。中でも高齢女性の認知度は大きく上昇していました。2012年11月発行の『日経トレンディ』の「2013年ヒット予測ランキング」においても“抗ロコモ”ギア&フードが第2位に挙げられており、ロコモに対する社会的な関心が徐々に高まっていることを感じます。

 ただし、これらの調査の認知度には「その言葉を耳にしたことはあるが、意味はよく知らない」という回答も含まれてしまうため、ロコモに対する正しい理解がどれだけ広がっているかを反映した数値ではない点に注意が必要です。また、認知度を上げるだけでは運動器疾患による要介護人口を減少させるには不十分です。国民一人ひとりの行動変容を促すレベルまで、より広くロコモ予防の重要性と対策の必要性を伝えていかなければなりません。