BNPやNT-proBNPは今や心不全診療に欠かせないマーカーだが、診断の基準値は分かりやすく示されていなかった。日本心不全学会は今春、一般医家向けに診断基準をまとめたステートメントを発表した。そのポイントを解説するとともに、活用に際しての留意点を紹介する。


 「BNP(brain natriuretic peptide)やNT-proBNP(N-terminal-pro BNP)は心不全の病態を鋭敏に反映するマーカーであり、広く普及している。しかし、心不全疑いの患者を初めて診察するときに、あるいは継続的に診ている患者で心不全が疑われるときに、その測定値をどのように解釈すべきかについての基準はこれまで明確に示されていなかった。そこで、循環器非専門医向けにカットオフ値を提示することにした」。日本心不全学会がBNPに関する学会ステートメントを発表した理由を、作成を担当した同学会予防委員会の委員長である奈良県立医科大学第一内科学教室教授の斎藤能彦氏はこう説明する。

100pg/mLから治療対象の可能性

 心不全を初めて疑ってBNPを測定した際のカットオフ値は、図1に示す通り。「日本ではBNPのデータの方がNT-proBNPより豊富なため、BNPを主体に作成した」(斎藤氏)。

 BNPとNT-proBNPは、いずれもBNP前駆体(proBNP)から生成される。生理的に未活性のNT-proBNP(N末端からの76個のアミノ酸で構成)と生理活性を有するBNP(残りの32個のアミノ酸で構成)に切断されるため、BNPとNT-proBNPは心筋から等モル分泌されている。

 まず、BNPの正常値は一般に普及している18.4pg/mLとした。この数値はBNP測定キットの添付文書に参考正常値などとして記載されている。これより低ければ、心不全の可能性は極めて低いと判断してよい。

 18.4〜40pg/mLの場合、高血圧や糖尿病といった心不全の危険因子を有する患者でも、すぐに治療が必要となる心不全の可能性は低い。一方で、収縮性心膜炎や僧帽弁狭窄症などではBNPだけだと心不全の程度を過小評価してしまうケースもあるので、症状や症候を十分に加味して判断するよう求めている。

 40〜100pg/mLであれば、軽度の心不全の可能性があるので、危険因子を多く持つ患者などでは、胸部X線、心電図、心エコー検査の実施を勧めている。ただし、重症心不全の可能性は低いため、原因がある程度特定できれば、そのまま経過観察することも可能としている。

 100〜200pg/mLの場合は、治療対象となる心不全の可能性があるため、心エコー検査などを早期に行い、原因を検索する必要がある。さらに、200pg/mL以上になると、治療対象となる心不全の可能性が高いと考えられるため、症状を伴う場合は心不全治療を開始すべきとしている。

 NT-proBNPに関しては、わが国のデータが十分でなくコンセンサスが得られていないので、図1に示す値を提案するのにとどめた。また、日本循環器学会の慢性心不全治療ガイドラインや欧州心臓学会(ESC)のガイドラインと大きな齟齬を生じないようにカットオフ値が設定されている。