国際アルツハイマー病学会(AAIC2013)では、大規模な疫学研究の発表も目立った。その中から、癌や糖尿病といった合併症とアルツハイマー病との関連や、退職年齢と認知症発症の関連を調べた研究などを紹介する。


米国VA Boston Healthcare SystemのJane A. Driver氏

 今学会の疫学研究のトピックスの一つは、癌とアルツハイマー病(AD)の逆相関を示すデータだ。多くの癌において、癌の発症者はADリスクが有意に低いことなどを、米国VA Boston Healthcare SystemのJane A. Driver氏らが発表した。

多くの癌でAD発症リスクは減少
 近年、ADだけでなく、パーキンソン病やダウン症候群などの神経疾患が、癌と「inverse commorbidity」の関連にあることを示す論文が次々と発表されている(図1)。inverse commorbidityとは、別の疾患にかかっていると、発症リスクが通常よりも低くなる疾患を指す。

図1●癌との逆相関が示唆される疾患(inverse commorbidity)(Driver氏による)

 今回は、349万9378人の退役軍人のデータ(VAHCS、1996〜2011年)を用いて、19の異なる癌の有無とAD発症の関連について調べた。対象者は、登録時に認知症を発症していない65歳以上とした。平均年齢は71歳。男性が98%のため乳癌は除外した。

 その結果、追跡期間中(中央値5.65年)に、8万2028人がADと診断された。うち24%が癌サバイバーで、76%は癌の発症がなかった。

 癌の種類別にAD発症リスクを調べたところ、肺癌、腎癌、膵癌、肝癌など、多くの癌サバイバーはAD発症リスクが有意に低かった(表1)。

表1●癌の種類とアルツハイマー病のリスク(Driver氏による)

 癌患者にADの発症が少ないのは、癌患者がADを発症する前に若くして亡くなるからだとする反論もある。しかし、Driver氏は、「対象の癌サバイバーは長生きしており、実際に脳卒中、骨関節炎、白内障、加齢黄斑変性症などの加齢関連疾患の発症率を調べたところ、癌サバイバーで有意に高かった」と説明した。癌サバイバーは、AD以外の認知症の発症リスクも高かった。

 同氏らは、癌の治療とADリスクの関連についても解析した。その結果、癌の種類に関係なく、化学療法や放射線治療を受けていた患者は17〜23%AD発症リスクが低かった。サブ解析では、化学療法のみを行った患者は、前立腺癌以外の全ての癌でADリスクが低かった(ハザード比[HR]は0.55から0.80)。一方、放射線治療のみの患者では有意な関連はなかった。

 癌とADの関連が注目される背景には、癌がAD発症に対して何らかの抑制的効果を有し、新規治療薬の開発の糸口になるかもしれないとの期待がある。「癌を促進させる遺伝子および分子経路は、一方で神経保護の効果があるのかもしれない」とDriver氏。例えば、Pin1と呼ばれる蛋白質は癌患者では過剰傾向だが、AD患者では欠乏していることが分かっているという。こうした研究が進めば、癌とADの両方に有効な治療薬が開発される可能性もある。