炎症に注目した新しい治療標的とは
 タウを標的とした新規治療薬には、既に開発が進められているものもある。メチレンブルーに関する第3相試験が現在進行中であるほか、タウワクチンやタウのリン酸化を阻害する新規治療薬の開発などが走り始めている。今回の学会では、Aβやタウ以外の新しい治療ターゲットに関する研究成果も示された。

米国Memory Enhancement Center of AmericaのJoel S. Ross氏

 その1つが、ミクログリアを標的としたCHF5074という化合物だ。米国Memory Enhancement Center of AmericaのJoel S. Ross氏は、同学会でCHF5074の第2相試験の結果を発表した。

 ミクログリアは「脳の掃除屋」と呼ばれる免疫応答細胞で、通常は脳内で免疫監視や防御反応を担っている。しかし、脳組織が傷害を受けたり、脳内にAβなどのゴミがたまるなどの異常が生じると、ミクログリアは形を変えて暴走し、サイトカインの一種である炎症性蛋白質を放出し、炎症を引き起こす。「異常に活性化したミクログリアが引き起こすこの炎症こそが、神経細胞にダメージを与え神経細胞死に至る重要なプロセスだ」とRoss氏は語る。

 CHF5074には、炎症性蛋白質などを抑制し、ミクログリアの働きを正常な状態に調整する効果が期待されている。既に動物実験では、Aβの蓄積を予防し、記憶損失を軽減する効果が示されているという。

 ヒトでは、第2相試験の結果が今回の学会で報告された。74人のMCI患者をCHF5074の投与量で200mg/日、400mg/日、600mg/日の3群に分け、14週まで二重盲検を、その後患者の任意で90週までオープンラベル試験を実施した。

 その結果、CHF5074はMCI患者に忍容性が高く、投与量依存性に認知機能の改善が見られたという。64週における認知機能はベースラインよりも有意に改善し、特にADの感受性遺伝子ApoE4のキャリア患者は、ApoE4のキャリアではない患者に比べて改善率が高かった。

 Ross氏はこの結果を踏まえて、「CHF5074は、ApoE4キャリアのMCIの発症を遅らせることができる画期的な新薬となる可能性がある」と語った。

 この他、神経幹細胞の新生を促進するとされるアロプレグナノロン(Allo)に関する第1相試験の結果も発表された。

 また、炎症抑制作用があるとされる2型糖尿病治療薬のピオグリタゾンを用いた第3相試験は、2013年の夏から症例の組み入れを開始した。この治験では、ApoE4に加えて、開発中のTOMM40という新しいバイオマーカーも使ってADリスクの高い高齢者を選別し、ピオグリタゾン投与によってMCIの発症を遅らせることができるかどうかを検証する。