アルツハイマー病患者の脳内に蓄積するタウの状態を画像化する技術が登場し、脳内のタウを可視的に把握することが可能になりそうだ。タウの蓄積は、神経細胞死に直結するとされ、創薬分野における新たな展開が期待されている。


 PETを使って脳にたまった異常蛋白質アミロイドを画像化する、アミロイドイメージングが開発されたのは今からおよそ10年前。これを機に国際的な大規模観察研究ADNIがスタートし、アルツハイマー病(AD)の脳病理の解明は大きく進んだ。

 こうした動きと連動し、AD発症に至る最初の病理変化とされるアミロイドβ(Aβ)の蓄積を阻止する治療薬の開発が続々とスタートした。しかし、主だった治験がいずれも失敗に終わったのは記憶に新しい。

放射線医学総合研究所分子イメージング研究センターの島田斉氏

 結局、これらの治験から研究者たちが得た共通認識は、症状が出た段階でAβを除去しても病態の進行を抑えることは難しく、発症前のもっと早期からの予防的介入が必要だというものだった。Aβをターゲットとした治験は引き続き、家族性ADなどを対象として進められている。

 一方、脳にたまるもう1つの異常蛋白質タウに関する研究では、今回の国際アルツハイマー病学会(AAIC2013)で新たな進展が見られた。「タウの蓄積は、これまで脳脊髄液で推定するしかなく、絶対量の把握や存在場所の特定は困難だったが、ようやくタウイメージングの実用化に成功した」と話すのは、同学会で発表を行った放射線医学総合研究所(千葉市稲毛区)分子イメージング研究センターの島田斉氏。タウを標的とした研究や新薬開発に拍車がかかる可能性が出てきた。

「タウの蓄積」は認知機能低下を反映
 ADは、発症の20年ほど前からAβが脳にたまり始める。そして、Aβの蓄積に続いてタウの蓄積(タウがリン酸化によって凝集し神経原線維変化を起こすこと)が始まり、これらの病理変化が神経伝達異常を引き起こし、最終的に神経細胞の死滅、認知機能障害に至るとされる。これがAD発症に至る病態カスケードで、遺伝子研究の他、ADNI研究もこの仮説を裏づけている。

 このように、ADの進行過程は明確になってきたものの、神経細胞死に至る詳細なメカニズムについては明らかになっていないのが現状だ。

 とはいえ、「Aβは、ADの病理をスタートさせる着火剤のようなもの。一方、タウはAD以外の変性性認知症でも蓄積が見られ、神経細胞死や記憶障害とより密接に関連していることを示す根拠が集積されつつある」と島田氏は説明する。

 タウの毒性を除去できれば、ADに限らず、神経細胞死に関連する様々な認知症の進行を阻止できる可能性があるという。しかし、脳内のタウを画像化する技術がないことが、タウを標的とした創薬のネックになっていた。

 今回、島田氏らが開発したのは、神経原線維変化したタウに選択的に結合する放射性薬剤の[11C]PBB3。これを用いたタウPETによって、脳内のタウの蓄積量を可視的に把握できる。「AD患者の脳をイメージングすると、タウは記憶に関係する海馬を中心に集積し、病気の重症度が増すにつれ周辺まで広がっていることが確認できた」と島田氏。

 図1は、AD患者のタウPETとアミロイドPETの画像を比較したものだ。海馬傍回を拡大すると、タウPETでは強い集積が認められるが、アミロイドPETでは集積が見られない。

図1●アルツハイマー病患者のタウPET画像とアミロイドPET画像(島田氏による)
タウPET画像では、海馬傍回での集積が見られる。
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