大学が地元医師を支援
 D-CAPシステムの構築を主導したのは、自治医大循環器内科学部門主任教授の苅尾七臣氏。震災直後に現地を訪れた際、血圧が非常に高い被災者が多いことを知り、医療機器メーカーやITベンダーなど7社の協力を得てわずか数週間でシステムを作り上げた。

 仮設診療所などに全自動血圧計を置き、収縮期血圧が180mmHgを超える患者50人を登録。全員に家庭血圧計を配布して朝晩の1日2回測定した血圧値を各自のICカードに記憶し、そのデータを外来診療時に診療所のパソコンで取り込み、クラウドコンピューターに送信・蓄積できるようにした(図4)。さらに、仮設診療所だけでなく自治医大でも蓄積したデータを遠隔で閲覧し、ハイリスクの患者を同定して地元の医師の診療を支援する仕組みをつくった。

図4 宮城県南三陸町のD-CAPシステムの概要

 苅尾氏は1995年の阪神淡路大震災時、被災直後に住民の間で心筋梗塞や脳卒中などの発症頻度が上昇傾向にあったことを認識していた。その経験から、年齢(75歳以上)、家族の状況(死亡・入院)、高血圧(収縮期血圧160mmHg超)といった7項目からなる循環器疾患発症のリスクスコアのほか、睡眠改善や運動の維持、良質な食事などの8項目で構成される循環器疾患予防スコアを作成。こうしたスコアもデータベース化できるようにした。

 当初は患者が急増して医師が不足する震災直後の医療現場の援助が最大の目的だったが、被災者が仮設住宅に移った後も震災によるストレスにさらされ、循環器疾患の発症リスクが高い状態が続くと判断し運用を継続。システムの対象となる収縮期血圧の基準値も180mmHgから160、140mmHgへ徐々に下げ、生活習慣の改善を促したり積極的に血圧管理する患者数を増やした。

 現在は公立南三陸診療所に通院する患者300人弱の血圧を管理している。一方、医療ニーズが震災直後より落ち着いたため、西澤氏をはじめとした地元医師たちが自治医大の遠隔支援を受ける機会は減っている。

 西澤氏は「患者さんのリスクに応じて来院頻度や降圧薬の処方、生活習慣の指導などをきめ細かく行えるようになった。心筋梗塞や脳卒中の発症率は震災前と変化はなく、このシステムを通じて早期介入できたのが効果的だったと思う」と言う。

 同診療所では、今後もD-CAPシステムの運用を続けていく。ただ、現在も医療機器メーカーやITベンダーがシステムの運営費を自主的に負担している部分が大きく、その費用の調達が課題の一つとなっている。

 西澤氏は、「大学病院などの遠隔支援も可能なD-CAPシステムは過疎地などの医療者の負担を減らすだけでなく、医療費の削減にも寄与するはず。全国各地で運用できる形を確立すれば、こうした問題も解決できるのではないか」と話している。