脳卒中の発症が5倍に
 岩手医大神経内科・老年科教授の寺山靖夫氏らは、岩手県の山田町(1601人)、大槌町(853人)、陸前高田市(1666人)の仮設住宅に住む被災者で脳血管障害の既往がないと推測された1090人(山田町522人、大槌町230人、陸前高田市338人、平均年齢72.1歳)の血圧を調べた(日経メディカル特別編集版13年6月号ピックアップ)。平均血圧は震災1年後も142.6/81.6mmHgと高い状態だったが、2年後にはさらに上昇して154.7/93.2mmHgとなった。

 脳卒中を発症した患者の増加も判明。3市町の医療機関の医師に脳卒中の発症患者数の聞き取り調査をしたところ、震災発生の翌月の11年4月〜12年3月の患者数は11人(月平均0.9人)だったのに対し、12年4月〜13年1月は52人(同5.2人)に達していた(図3)。

 日本脳卒中学会は今年3月、被災地住民は不自由な生活を強いられ、生活習慣病に改善の兆しが見られず、脳卒中の発症も増えているとし、安倍晋三首相に改善努力を求める声明を提出した。しかし、政府はいまだ対策を打ち出していない。

 辻氏は、「高齢化が一気に進んだ被災地の今は10〜20年後の日本の姿。医療面だけでなく介護面や地域コミュニティーのあり方なども含めた総合的な観点から、復興事業に取り組む必要がある。ひいてはそれが被災住民の健康対策につながり、今後、超高齢化を迎える日本のモデルにもなるはずだ」と指摘する。

【 宮城県南三陸町 】
インターネットを駆使して住民の血圧管理を徹底

 政府の対策が見えてこない一方で、独自の取り組みを始めている被災地もある。その代表例が、宮城県南三陸町や福島県南相馬市だ。

 南三陸町(人口約1万5000人)では約900人の死者・行方不明者が出たほか、震災後に住民の町外への転居も相次ぎ、人口は約2000人減少。市街地の浸水率は48%に達し、甚大な被害を受けた地域の一つだ。

公立南三陸診療所の西澤匡史氏は、「震災発生直後から血圧管理システムを導入したのが功を奏している」と話す。

 一方で、医療提供体制の復興は順調に進む。15年春をめどに、全壊した公立志津川病院の再興が決定。現在、同町の公立南三陸診療所と登米市に分散している外来と入院の機能を集約、今後の医療需要を考慮して126床あった病床数は90床(一般40床、医療療養50床)とする。

 さらに、震災直後の11年4月末に導入した災害時循環器リスク予防(Disaster Cardiovascular Prevention:D-CAP)システムを現在も継続して運用し、高齢住民の血圧管理や循環器疾患の発症予防に効果を上げている。震災当時、宮城県の災害医療コーディネーターを務めた公立志津川病院の副院長である西澤匡史氏は、「被災直後だけでなく仮設住宅などに移った後も、被災者は様々なストレスを受けている。血圧はその指標にもなり、継続的に管理する意義は大きい」と語る。