──先生の教室では、拡張型心筋症など重症心不全の治療開発にも積極的に取り組まれていますね。

 私たちは06年京大の山中伸弥教授のiPS細胞発見以降、これを応用して心筋細胞を再生し、心不全治療を行うことを目標として研究を進めています。10年に私たちは1滴の血液からTリンパ球を用いてiPS細胞を樹立する方法を開発し、それが非常にうまくいっています。現在、こうして樹立したiPS細胞を心筋細胞に効率的に分化誘導し、大量に増やして移植する技術開発を急ピッチで行っています。

 ヒトiPS細胞から得られた再生心筋には奇形腫の原因となる未分化細胞が残存しているため、再生心筋細胞を純化・精製する必要があります。私たちはメタボローム解析という技術を用い、未分化細胞と心筋細胞の代謝の違いを比較しました。その結果、前者はブドウ糖を大量に取り込んでエネルギーを得ているだけでなく、増殖の際に必要なアミノ酸や核酸を作り出していました。一方、後者の心筋細胞は少量のブドウ糖や乳酸をピルビン酸に転換し、ミトコンドリア内の酸化的リン酸化により効率的にエネルギーを得ていました。

 私たちはこの両者の差異に着目、ブドウ糖を除去し乳酸を添加した培養液を作製しました。実際、iPS細胞由来の様々な細胞集団をこの培養液中で培養すると心筋細胞のみが選別されることが確認されました。こうして純化・精製した再生心筋細胞を「心筋球」という塊にして心筋組織に投与して心筋に生着させる手法も開発し、現在動物実験で移植後に収縮力が上がるかどうかを検討中です。これが実現すれば臨床応用が見えてきます。その投与を比較的低侵襲にできる「心嚢内視鏡」も開発中です。残された課題を1日でも早くクリアし、心不全の治療を待つ患者さんに新たな治療を届けたいと思っています。