肺高血圧症、拡張型心筋症など循環器系難病の病態解明や治療法の開発に長年取り組んできたのが慶應大循環器内科だ。今年10月に横浜市で開催される第1回日本肺高血圧学会学術集会会長を務め、重症心不全に対する心筋細胞移植の開発も進めている同科教授の福田恵一氏に、肺高血圧症診療の現況や心筋細胞移植の可能性について聞いた。


ふくだ けいいち氏 
1957年生まれ。83年慶應大卒。87年同大大学院医学研究科(循環器内科学)修了。米ハーバード大ベスイスラエル病院、米ミシガン大心血管研究センター留学などを経て、99年慶應大循環器内科講師、2010年から現職。

──肺高血圧症はかつては不治の病といわれましたが、近年治療がかなり進んできたようですね。

 肺高血圧症は多岐にわたる病因により肺動脈圧が異常に高まる病態の総称です。確かに十数年前までは一度この病気と診断されるとその後3年くらいで亡くなってしまう非常に怖い疾患でした。しかし、1990年代にプロスタグランジン(PG)I2製剤が登場して状況が一変。10年以上生存できる患者も出てきました。さらにエンドセリン受容体拮抗薬やホスホジエステラーゼ5阻害薬が登場し、本症の予後は大きく改善しました。

 また、2008年に米国ダナポイントで開かれた国際会議で肺高血圧症の疾患分類が発表され、病態の理解も進みました。それまで様々な原因で起こる病態を肺高血圧症とひとくくりにしていたのが、肺動脈性肺高血圧症(PAH)、慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)、肺静脈閉塞性疾患(PVOD)/肺毛細血管腫症(PCH)などに分類されました。

 頻度はまれですが、遺伝性PAHも知られています。現在、遺伝子解析によりその原因遺伝子が特定されてきました。最も頻度が高いのが2 型骨形成因子受容体(BMPR2)の突然変異です。そのほか、BMPR2のシグナル伝達に関係するALK1やSMAD8といった遺伝子の異常も遺伝性PAHの発症に関与することが分かってきました。

──そうした分子をターゲットにした治療薬開発も求められますね。

 実際、シグナル伝達因子Rafの異常により肺高血圧を来す神経線維腫症という病気があるのですが、Rafに対する分子標的薬により肺高血圧症が抑制されます。キャッスルマン病というIL6を多量に分泌する腫瘍性疾患も肺高血圧症を起こしますが、IL6に対する抗体医薬が肺高血圧症を抑制することも分かってきました。PGI2製剤をはじめ既存の治療薬を軸に症状を抑制するとともに、マイナーな原因による疾患に対しては原因ごとの治療薬を開発していく個別化医療が今後重要になると思っています。

 一方、肺動脈内が器質化血栓で閉塞して起こるCTEPHに対しては経皮的肺動脈バルーン拡張術による治療が国立病院機構岡山医療センターの松原広己先生を中心に進んでいます。当院でも松原先生のところで1年間トレーニングを受けた医師がこの治療を行っています。

 今年10月に開かれる第1回日本肺高血圧学会学術集会では、このような肺高血圧症に関する最新のトピックを議論できればと思っています。現在、循環器内科だけでなく呼吸器内科、膠原病内科、小児科、あるいは一部の心臓血管外科の先生方がこの病気を診ています。こうした多領域の先生方が学会に集結して議論をし合えば、肺高血圧症の診療・研究の発展により貢献できるのではないかと考えています。