糖尿病治療用の持効型溶解インスリンアナログ製剤トレシーバ(一般名インスリン デグルデク、以下デグルデク)は、世界に先駆けて日本で今年3月発売された。夜間の低血糖を抑制するという同剤の特性とメリットについて、東京慈恵医大糖尿病・代謝・内分泌内科准教授の西村理明氏に聞いた。


西村 理明氏
1991年東京慈恵医大卒。同附属病院第三内科、米国ピッツバーグ大学(Graduate School of Public Health)、富士市立中央病院内科医長を経て、2011年から現職。00年からピッツバーグ大学のAdjunct Assistant Professorも務めている。

 「持続血糖モニター(CGM)を用いて調べると、インスリンが必要な1型糖尿病とインスリン治療によってもコントロール不良の2型糖尿病で、ほぼ同じ血糖変動パターンを示すことが分かった。そのパターンとは、夜間に血糖値が低下し、朝食後に他の食後と比較して最も大きな血糖上昇が見られ、その後血糖値は夕食前に向けて低下していくというものだ。この激しい血糖変動を是正することが課題となっていたが、持効型溶解インスリンアナログ製剤のデグルデクの登場によって血糖値の乱高下が改善する患者が増え、人によっては平坦化することもある」

 西村氏は、こうデグルデクを評価する。

 現在、治療の現場で使われているインスリン製剤は、作用発現時間や作用持続時間の違いによって超速効型、速効型、中間型、混合型、持効型溶解の5種類に分類される。強化インスリン療法では、中間型または持効型溶解で基礎インスリン分泌を補い、食事前に超速効型または速効型で追加インスリンを補充するのが一般的となっている。西村氏によると、朝食後の急激な血糖上昇は、超速効型または速効型のインスリン量を増やすだけでは解決しないという。そのためには夜間の血糖変動の平坦化が必須だが、中間型より作用持続時間が長い持効型溶解でも、従来の薬剤では夜間の低血糖の消失は期待したほど見られなかったそうだ。

 そうした従来の持効型溶解で夜間低血糖が改善しない患者に対し、「デグルデクが奏効する可能性は高い」と西村氏は話す。

作用持続時間の長さが特徴
 今年3月に発売されたデグルデクは、第3相臨床試験(Treat to Target 試験)において、対照薬である既存持効型溶解グラルギンと同程度に血糖コントロールを改善しつつ、夜間低血糖の発現頻度は対照薬と比べて有意に低かった。

 西村氏は、「夜間低血糖の反動で朝食後の急激な上昇が引き起こされると考えられることから、夜間低血糖を低減するデグルデクは血糖値の平坦かつ安定化に寄与する」と指摘した上で、「その効果は作用持続時間がより長いというデグルデクの薬剤特性がもたらしている」と考察する。

 デグルデクは、製剤中で2つのヘキサマー(六量体)からなる安定した可溶性のダイヘキサマーとして存在している。そして、皮下投与後に可溶性の長く安定したマルチヘキサマーを形成する。マルチヘキサマーは、インスリンのヘキサマーが結合し、長く鎖のようにつながった状態で、分子が大きいため血管に吸収されるのに時間が掛かる。このマルチヘキサマーの端からインスリンモノマー(単量体)が徐々に解離し、ゆっくりかつ持続的に血中へ移行することにより、長く安定した作用を実現する。