山本 信之氏
和歌山県立医大 内科学第三講座 教授

 近年、分子標的薬の出現によって癌薬物治療の戦略、特に副作用対策が大きく変わろうとしている。従来の抗癌剤は増殖速度が速い細胞を標的としていたため、細胞分裂が盛んな消化管粘膜や骨髄、毛根などの正常細胞も標的となり、悪心・嘔吐、下痢、白血球数の低下、脱毛などの副作用が見られた。一方、分子標的薬は癌細胞に特異的に発現している分子のみを標的にして開発された薬である。そこで、「当初は副作用が少ない抗癌剤と期待されていた。確かに、骨髄抑制や脱毛など従来の抗癌剤に特徴的な副作用は見られないが、分子標的薬に特有の副作用が出現する」と、和歌山県立医大内科学第三講座教授の山本信之氏は語る。

皮膚障害は治療効果の指標
 分子標的薬に特徴的な副作用の一つが皮膚障害で、主に上皮成長因子受容体(EGFR)の機能を阻害する抗EGFR抗体薬やEGFRチロシンキナーゼ阻害薬(EGFR-TKI)で見られる。

 「EGFRは上皮系細胞の増殖を調節しており、細胞増殖の活発な腺細胞に多く発現している。そこで、その機能を抑制することで非小細胞肺癌や乳癌、大腸癌の治療に効果を発揮する。しかし、皮膚の表皮細胞や付属器細胞にも影響が及ぶため皮膚障害が高頻度に発現するといわれている」(山本氏)

 薬による皮膚障害は中毒疹のため、従来ならその時点で投薬を中断していた。しかし「一般的にEGFR-TKIや抗EGFR抗体薬は皮膚障害が強いほど治療効果が高いことが示されているため(図1)、皮膚障害をコントロールしながら治療を継続することが求められる」と、山本氏は指摘する。

皮膚科医との情報共有が重要
 間もなく臨床で使えるようになる第2世代のEGFR-TKIは、グレード3以上の皮膚障害の発現率が第1世代より高く、日中韓で実施した臨床試験では、わが国における重症皮膚障害の発現率が特に高いことから、これまで以上に適切なコントロールが求められる。

 「今後、分子標的薬が抗癌剤治療の中心を占めていくのは間違いない。一方、これまでの経験から皮膚障害の多くは適切な治療を行うことで回避できることが分かっている。従って、治療早期から皮膚科医と協力して皮膚障害をコントロールすることが今後ますます重要になる」(山本氏)

 その際に、特に重要なのが皮膚科開業医の理解と協力であると山本氏は指摘する。地方の癌診療連携拠点病院の中には皮膚科医がいない施設もあるからだ。そこで「分子標的薬による皮膚障害は中毒疹ではないので、コントロールしながら治療を継続することが重要であることを、まず皮膚科開業医に理解していただきたい」と山本氏は述べ、今後は皮膚科開業医とも積極的に情報共有していきたいとしている。