井上 博氏
富山大大学院 医学薬学研究部 内科学第二講座 教授

 心房細動(AF)の治療目標は、血栓塞栓症と心不全の予防、そして自覚症状と生活の質(QOL)の改善である。

 かつて、AF自体の至適治療はリズムコントロール(洞調律維持治療)か、レートコントロール(心拍数調節治療)かを巡って長らく議論が続いていた。しかし、AFFIRM試験1)で心拍数調節治療の有用性が認識され、J-RHYTHM試験2)でも持続性AFに対する心拍数調節治療の有用性が示された。

洞調律より心拍数低下を優先
 AFに対する治療方針について富山大大学院医学薬学研究部内科学第二講座教授の井上博氏は「まず、血栓塞栓症のリスクに応じた抗凝固療法を行い、多くの場合AF自体に対しては心拍数調節治療を優先し、自覚症状の改善が見られない場合は洞調律維持治療を行う」と指摘し、「個々の患者における血栓塞栓症や心不全のリスク、自覚症状やQOLを評価しながら治療方針を立てることがとても大切である」と語る。

 心拍数を低下させる心拍数調節治療には、ジギタリス製剤、非ジヒドロピリジン系Ca拮抗薬、β遮断薬が使われるが、近年注目されているのがβ遮断薬である。

 実際、わが国で行われたJ-RHYTHM試験でも発作性AFの心拍数調節治療に最も頻用された薬剤はβ遮断薬であった(図1)。また、欧米でも心拍数調節治療の主役がジギタリス製剤からβ遮断薬に代わったことがCARAF研究3)で明らかになっている。

 特に循環器専門医が、ジギタリス製剤や非ジヒドロピリジン系Ca拮抗薬に比してβ遮断薬を好む理由について井上氏は「β遮断薬は安静時だけでなく運動時の心拍数も低下させる。また、AFFIRM試験のサブ解析4)から最も薬剤の変更率が低かったのがβ遮断薬であることが報告されており、長期のコンプライアンスが良好である。さらに、心不全における心保護作用が明らかになっていることである」と説明する。

心拍数の目標値は85拍/分前後
 β遮断薬としては、わが国の臨床現場では主にビソプロロール、カルベジロール、アテノロールが使われてきたが、これまでAFの適応はなかった。「そこで、循環器関連5学会が適応取得の要望書を提出し、国内第3相臨床試験を行い、2013年6月にビソプロロールの頻脈性AFに対する効能・効果が追加承認された」(井上氏)。

 これまで、心拍数調節治療の目標値は安静時80拍/分以下、労作時110拍/分以下であったが、RACE II試験5)の成績から、今後は「自覚症状や心不全徴候の改善を目標に心拍数を調節し、最終的には85拍/分前後に調節する治療が標準になると思われる」と井上氏は指摘する。

 さらに同氏は、AF治療で大切なことは洞調律維持に固執することなく血栓塞栓症や心不全の管理を行いつつ、自覚症状を緩和することだと述べる。「特に高齢者では薬剤投与による夜間の徐脈に注意を払いながら心拍数調節治療を行うことがポイントになる。そこで、非専門医もβ遮断薬の使い方に慣れることが今後の課題といえる」。

1)Wyse DG, et al:N Engl J Med 2002;347:1825-33.
2)Ogawa S, et al:Circ J 2009;73:242-8.
3)Andrade JG, et al:Heart Rhythm 2010;7:1171-7.
4)Olshansky B, et al:J Am Coll Cardiol 2004;43:1201-8.
5)Van Gelder IC, et al:N Engl J Med 2010;362:1363-73.