泉 並木氏
武蔵野赤十字病院 消化器科 部長

 ウイルス性肝炎はわが国最大の感染症で、厚生労働省の報告によると現在日本には約230万人のC型肝炎ウイルス(HCV)感染者がいると推測されている。

 「わが国では1992年からインターフェロン(IFN)による抗ウイルス療法が始まり、これまでに約30万人がIFN治療を受け、その約70%が治癒していると思われる」と、武蔵野赤十字病院消化器科部長の泉並木氏は話す。

 一方、治療が必要なのにまだ1回も治療を受けていない未治療例は40万〜50万人いるといわれている。

70歳以上の肝癌発生が増加
 わが国のC型肝炎患者の特徴は、65歳以上の高齢者が多く、その大半が肝の線維化が進展して肝硬変の一歩手前、あるいは既に肝硬変になっていることだ。

 また、難治例といわれるジェノタイプ1型高ウイルス量症例が多いこともわが国の特徴である。

 これまで、HCVに感染すると徐々に肝の線維化が進展し、約20年かけて肝硬変に至り、その後肝癌を発生するといわれていた。「しかし最近、高齢者では肝線維化の進展が見られなくても肝癌を発生することが明らかになってきた」と泉氏は指摘する。

 そこで、肝癌のリスク因子を解析したところ、肝硬変にならなくても70歳代になると急激に肝癌を発生しやすくなることが明らかになった。

 「従って、積極的に高齢者を治療して肝癌の発生を予防することが、非常に重要な課題となっている」と泉氏は話す。

進歩し続けるC型肝炎治療
 わが国でC型肝炎に対するIFN単独療法が始まった当時のウイルス学的著効(SVR)率は平均で約30%、難治例であるジェノタイプ1型高ウイルス量症例ではわずか数%であった。

 その後、2001年からリバビリン(RBV)が、04年からはペグインターフェロン(PEG-IFN)が使えるようになってSVR率は向上した。

 現在、難治例に対してはプロテアーゼ阻害薬テラプレビル(TVR)を含む3剤併用療法(PEG-IFNα-2b+ RBV+TVR)が標準治療となり、SVR率は初回治療例で73%に達している。

 「ただし、TVRは重篤な皮膚障害、溶血性貧血、腎機能障害が発現する恐れがあるため、肝臓専門医と皮膚科専門医がいる医療機関でないと使用できない」(泉氏)

 さらに、8時間間隔で1日3回食後に服用し、それを12週間継続しなくてはならない。

 そこで、「副作用の多さを考慮して、最初の約2週間は入院が必要になるため、治療効果は高いが、治療対象者が限定され、広く普及するには至っていない」と泉氏は指摘する。

新たな治療戦略が求められる
 13年6月に開催された日本肝臓学会で、第2世代のプロテアーゼ阻害薬であるシメプレビル(SMV)の第3相試験(CONCERTO)の成績が報告された。同剤はHCVの複製に必須であるNS3/4Aセリンプロテアーゼを阻害する薬である。

 CONCERTOに関わった泉氏は、第2世代のプロテアーゼ阻害薬であるSMVの最大の特徴は、約9割のSVRで示される高い有効性に加えて、副作用が非常に少ないことだと述べる。溶血性貧血や血小板減少はほとんど見られず、皮疹の発現率はプラセボ群(PEG-IFNα-2a+RBV48週投与)より低かった。唯一SMVに特異的な副作用としては、治療初期にビリルビン値の上昇が見られたが治療を継続するうちに改善し、肝機能には全く影響を与えなかった。

 「つまり、PEG-IFNα-2a+RBV+SMV療法の副作用は、そのほとんどがPEG-IFNα-2a+RBVの副作用のため、PEG-IFNα-2a+RBV療法が受けられる患者全てにSMVを投与できる」(泉氏)。さらに、SMVの服用は1日1回で済み、血中濃度は食事の影響を受けない。

 「まだ承認されていないので、投与に際してどのような条件が付くか分からないが、CONCERTOの成績を見る限り治療初期に入院を必要とするような問題点はないので、TVRに課されたような制約は必要ないと思われる。従って、治療対象は相当広がり、C型肝炎治療は大きく変わると期待できる」と、泉氏は話す。