糖尿病治療薬と癌の関連は不明
 もう1つの課題である特定の糖尿病治療薬による癌罹患リスクの上昇については、今回の報告書でも明らかな結論を示していない。

 糖尿病治療では複数の薬剤を併用することが多いため、1つの薬剤による癌リスクを決定づけることはより難しいという。また、家族歴や治療歴といった交絡因子、薬剤量、投与期間なども考慮する必要があり、それだけ観察期間も長期化する。

 薬剤別に見ると、SU薬によって癌リスクが上昇するという報告があるが、研究結果は一貫していない。チアゾリジン薬については、膀胱癌のリスク上昇が報告されている。しかし、日本では膀胱癌の罹患率自体が低いため、絶対リスク上昇の影響は限定的とみられる。メトホルミンは癌罹患リスクを低下させるという研究結果があるが、最近の解析では関連が認められなかった。

 インクレチン関連薬は発売されてから間もないため、その他の薬剤と比べて現状で得られるデータは限られる。げっ歯類を用いた実験からは、GLP1受容体作動薬の投与で甲状腺C細胞腺腫の発生が報告された。また、米国の副作用報告データベースを用いた解析では、一部のインクレチン関連薬による膵臓癌、甲状腺癌のリスク上昇が示唆された。DPP4阻害薬を用いた無作為化比較試験のメタ解析では癌リスク上昇は認められなかったが、試験期間が短く、長期的な評価は不明だ。

 こうした状況から報告書では、「治療法の選択に関しては、添付文書などに示されている使用上の注意に従ったうえで、良好な血糖コントロールによるベネフィットを優先した治療が望ましい」と記載した。津金氏も、「多くの糖尿病治療薬で癌リスク上昇の可能性が指摘されているが、いずれも結論は得られていない。そのため、現在の薬剤で血糖コントロールが良好であれば、その薬による治療が優先される」と話している。

高インスリン血症が細胞増殖を亢進
 糖尿病による癌発生の機序としては、インスリン抵抗性に伴う高インスリン血症や高血糖状態、慢性的な全身性の炎症の関与などが考えられている。
 肥満によって脂肪細胞から遊離脂肪酸や腫瘍壊死因子(TNF)αの分泌が亢進する一方、アディポネクチンの分泌は低下する。その結果、インスリン抵抗性が進行し、代償的に高インスリン血症に至る。高インスリン血症自体が、標的細胞の増殖促進やアポトーシス抑制を引き起こす。
 さらに高インスリン血症はインスリン様増殖因子(IGF)結合蛋白を減少させ、IGF活性の亢進によって同様に標的細胞の増殖活性を高める。これらが、癌の発生や進行につながる変化を誘導する。
 また、肥満に伴い増加する脂肪細胞から活性型エストロゲンが産生され、それがエストロゲン標的組織の癌化を促進させる可能性も指摘されている。