パンデミック・インフルエンザウイルスではもちろん、かつて発生したSARSのような未知の感染症であっても、パンデミックワクチンの重要性は変わらない。ただ、発生から接種、そしてワクチン効果が現れるまでのタイムラグという課題は、常について回る。特措法には、このタイムラグの解消策も盛り込まれた。

 最たるものは、10mLバイアルの製造を優先することと、集団接種を基本にすることだ。集団接種については、要員確保が決め手となるとし、地域医師会などの協力を得ることを明記した。要請しても確保できない事態となれば、指示を出し強制的に確保する手立ても盛り込んだ。

 2009年のH1N1pdm09の際は、メキシコで発生が確認されてから半年後には、医療従事者に対する接種が始まった。また発生から1年以内には、優先接種対象者以外の一般市民にも接種が可能となっていた。

 市町村に対しては、集団接種を効率よく実施できるよう、保健所や保健センター、学校などの公的施設、協力医療機関への委託などで接種会場を確保することも求めている。

 このほかワクチン生産ラインの整備に加え、細胞培養法など新しいワクチン製造法の研究開発にも取り組むとしている。また、ワクチン効果を高める目的で、経鼻粘膜ワクチンのような新しい投与方法の研究開発を進めることも明記した。

 条件整備という面では、パンデミックワクチン接種対象者の優先順位をあらかじめ議論しておくことも示した。一般国民に対する接種でも、優先順位についての考え方を整理した。政府の決定プロセスの迅速化を図ることを目的としている。

 図1は、政府行動計画の全体像を示したもの。流行がピークに達するまでの時間を延ばし、かつピーク時の患者数を減らすという特措法の狙いが反映されている。幸い執筆時点で「緊急事態宣言」は出されていない。今のうちに特措法に盛り込まれた対策の具体化について、議論を深めるべきだろう。

図1●新型インフルエンザ等対策政府行動計画(案)概要
※上記の推計には、抗インフルエンザウイルス薬等による介入の影響(効果)、現在の我が国の医療体制等を一切考慮していない。

鳥インフルエンザA(H7N9)への対応は?

 冬に向けて、中国で確認された鳥インフルエンザA(H7N9)への警戒が必要との声は多い。日本で発生した場合を想定し、日本感染症学会は5月17日、鳥インフルエンザA(H7N9)のヒト感染に対応するための暫定的な指針を公表した。

 治療面では、「現行のノイラミニダーゼ阻害薬はいずれも有効と考えられる」との見解を示しつつ、世界保健機関(WHO)や米国疾病対策センター(CDC)、中国CDC、国立感染症研究所が、このウイルスに対してオセルタミビル(商品名タミフル)とザナミビル(リレンザ)は抗ウイルス活性があることを既に報告・言及していると指摘した。

 その上で、今回の暫定指針では、感染例(疑い例)には「オセルタミビルまたはペラミビル(ラピアクタ)が推奨される」とした。また、重症化が懸念されるような例では、倍量投与、投与期間の延長を推奨した。

 吸入薬であるザナミビルやラニナミビル(イナビル)については、「肺炎病巣がある場合にその病巣へ確実に分布するのかについてのエビデンスがまだ明らかではない」ため、「現時点では、ザナミビルやラニナミビルは『原則として』推奨しない」とした。

 ただし、この暫定指針に前後して、重症化が懸念されるような例で、早期からのタミフル投与にもかかわらず治療効果が小さかった症例が報告された。また、タミフル耐性マーカーを持つウイルスも確認されており注意が必要だ。