新型インフルエンザ等対策特別措置法が2013年4月に施行され、政府の行動計画、各種ガイドラインも固まった。ヒトに対して高い病原性を示す感染症が発生した場合、国を挙げての対策を展開する法的根拠が確立した。医療を確保するために知事の権限を規定する一方、医療者への補償制度を盛り込んだのが特徴だ。


 そもそも、なぜ新型インフルエンザ等対策特別措置法(特措法)は必要だったのか─。内閣官房新型インフルエンザ等対策室の説明からは、「知事の権限」と「補償制度の創設」が大きな理由として浮かび上がってくる。

補償制度は医療確保のため
 法律の具体像を示した新型インフルエンザ等対策有識者会議の「中間とりまとめ」(2013年2月7日)を見ると、「医療関係者に対する要請・指示、補償について」という項目がある。その中には、病原性が非常に高いなど、都道府県知事による通常の協力依頼のみでは医療の確保ができないと考えられる場合に、知事は医療を行うよう要請または指示することができるとされている。

 このように知事の権限を規定したのは、全国知事会が「災害対策基本法に類似した知事の権限を付与するなど、法的な整備を進めるべき」と強く要望してきたからだ。2009年のパンデミック(世界的大流行)時には、知事らから外出自粛や学校、興行場、催物の制限といった公衆衛生上の対策などを市民に要請する際に、その根拠となる法律がないことに疑問の声が上がっていた。

 「中間とりまとめ」には、災害救助法がキーワードとしてしばしば登場する。内閣官房新型インフルエンザ等対策室によると、東日本大震災の発生を機に、特措法成立へ向けた流れが一気に加速したという。地震や津波と同様、未知の感染症が「災害」として強く意識された結果だ。

 これに対応する形で特措法には、医療関係者を対象にした補償制度も盛り込まれた。つまり、補償制度の創設は、医療の確保を確かなものにするために必要とされたものだ。

 なお、要請に対して正当な理由がないのに医療関係者が応じない場合は、指示に切り替えられることになる。ただし、指示に従わなくても、特に罰則があるわけではない。

「事前接種」は盛り込まれず
 一方、プレパンデミックワクチンなど、議論の多かった対策はどうなったのか。これまでの行動計画や専門家会議の意見書と見比べると、鳥インフルエンザウイルス(H5N1亜型)を元に製造したプレパンデミックワクチンの役割が変わっている。「中間とりまとめ」では、H5N1プレパンデミックワクチンの「事前接種」は盛り込まれなかった。その代わりに、パンデミックワクチンに重点が移った感が強い。

 パンデミックを引き起こすような未知の感染症が発生した場合、その流行拡大を可能な限り抑え、かつ感染者の重症化を防ぐためには、パンデミックワクチンが重要な“武器”となる。しかし、パンデミックワクチンは万能ではない。発生から接種までのタイムラグ、優先順位問題、小児の接種用量など、解決すべき課題は山積している。

 措置法に出てくるワクチン接種には、特定接種、臨時の予防接種、さらに新臨時接種の3種類がある。

 このうち特定接種とは、未知の感染症に真っ先に立ち向かうことになる医療従事者や、社会機能の維持に関わる人に限定したワクチン接種のこと。具体的な対象として、医療機関や薬局の医療従事者をはじめ、介護・福祉、電気やガス、医薬品製造・卸、中央銀行、さらには郵便など国民生活あるいは国民経済の安定に携わる人々を挙げている。

 こうした医療従事者や社会機能の維持に関わる人が感染すれば、最低限の国民生活すら維持できなくなる恐れがある、というのが特定接種を制度化した理由だ。