薬剤相互作用にも注意を
 分子標的治療薬に限ったことではないが、もう1点注意したいのが、薬剤相互作用だ。

 分子標的治療薬で低分子化合物を有効成分とするものは、従来の薬剤と同様に、薬物代謝酵素の1つであるチトクロームP450(CYP)3A4を介して代謝されるものが多い。一方で、スタチンやCa拮抗薬といった代表的な循環器疾患治療薬の多くも、CYP3A4で代謝される。

 そのため、患者が癌化学療法を受けていることを知らずに循環器疾患治療薬を含めた他の薬剤を処方してしまうと、薬剤相互作用によってそれぞれの治療に影響を及ぼす可能性がある。特に、分子標的治療薬は薬剤の血中有効域が狭いため、薬剤相互作用により期待した抗腫瘍効果が得られない、もしくは毒性が出やすくなると考えられるので、十分な注意が必要だ。

 また、分子標的治療薬のイマチニブなどは、CYP2C9で代謝されるため、同じくCYP2C9で代謝されるワルファリンの血中濃度が上昇する可能性がある。

 こうした理由から、抗癌剤と併用する薬剤がある場合は、抗癌剤との相互作用が報告されていないものを選択するなどの対応が必要となる。長期処方してきた薬剤であっても、同時に服用している薬剤を定期的に確認することが重要だ。

癌既往患者の心血管リスクが上昇
 海外の報告では、小児癌患者が成人してから心不全を発症するリスクが高いことも明らかになってきた。兄弟・姉妹を対照にすると約15倍、また冠動脈疾患も約10倍、脳卒中は約9倍に上昇するという。

 このデータについて南氏は、「たとえ治癒しても、癌治療の既往が心血管リスクになることを示唆している。特に分子標的治療薬は、臨床現場に登場してから日が浅く、晩期障害に関しては現在のところ全くデータがない。癌化学療法終了後も循環器系疾患については、長期的かつ慎重なフォローアップが必要だ」と話している。

データベース構築で実態把握へ
 分子標的治療薬は登場して数年から10年と従来の抗癌剤よりも使用経験が短く、副作用の発現頻度も異なる。そのため、これまでは副作用があまり認識されず、見過ごされてきた一面があるという。

 そこで南氏は、自院の臨床研究総合センター、循環器内科、外来化学療法部と連携し、癌患者のデータベースを構築する予定だ。エコーなどの心機能検査や血液検査の所見を経時的に収集し、癌患者における循環器症状の発症頻度や予後予測因子を検討することが目的。今年度内には作業を開始し、将来的には、全国規模の多施設共同研究に発展させる方向で現在調整を進めている。

 南氏は、「これまではデータがなく、循環器系の副作用を併発した癌患者をどう診察し、治療すればよいのかは手探りの状態だった。まず、患者データベースを構築し、その実態と対処法を明らかにしていきたい」と語っている。