しかし、術中の合併症に対応するためには、「腕のいい外科医のバックアップが必要不可欠」(林田氏)。そのためICPSでは、大腿部から挿入するアプローチでは内科医2人に加えて外科医が1人、心尖部から挿入するアプローチでは外科医が2人、内科医が1人の体制で実施している。

 林田氏は、「最適な治療体制は施設ごとに異なるだろう。しかし、カテーテル操作と合併症への対応を考慮すると、内科医と外科医の両方が必要であることは変わらない。内科医と外科医双方のスペシャリティーが必要で、うまくハートチームを形成していくことが重要」と語る。

 フランスでは、TAVIの臨床試験は06年に始まり、07年にはデバイスの製造販売が承認され、10年には保険治療の対象となった。一般に循環器領域では、低侵襲のカテーテル治療が導入されると外科治療件数は減少する。

 ところが同病院では、TAVIの普及に伴いAVRの件数も増加した(図1)。より低侵襲なTAVIが登場したことで、これまでAVRを諦めていたハイリスク患者が同施設に紹介されるようになり、精査の結果、AVRも実施可能と判断されるケースが増えたというわけだ。

図1●フランスICPSにおけるTAVIとAVRの実施件数の推移(林田氏による)

 「TAVI導入当初は、AVR件数が減少してしまうのではないかとも言われたが、結果的には両方とも増加し、助けられるAS患者が増えた」と林田氏は話す。

体格小さい日本人は弁輪破裂に注意
 現在、日本ではTAVIデバイスの製造販売承認が申請されている段階だ。日本でTAVIが実施できるようになった際に想定される課題について林田氏は、「一般に、日本人の体格は欧米人よりも小柄なので、それだけ弁輪径も小さく、デバイスを留置する際に起こる大動脈弁輪破裂のリスクが相対的に高くなる可能性がある」と指摘する。

 同病院で、TAVI治療を受けたフランス人患者242人を体表面積で2群に分けたところ、大柄な人(体表面積の中央値である1.75m2以上)の大動脈弁輪の破裂率は0.5%だったが、小柄な人(同1.75m2未満)では2.3%と有意に高率だった。大柄な人の大動脈弁輪径は平均22.8mmだったのに対し、小柄な人は平均21.3mmと、解剖学的に大動脈弁輪径が小さいことがその理由と考えられた。

 我が国での臨床試験PREVAIL Japan Trialによると、日本人患者の体表面積の平均値は1.41m2で、フランス人の「小柄な人」よりもさらに体格が小さかった。つまり、日本人の大動脈弁輪破裂率は、フランス人の小柄な人よりも高くなる可能性も考えられる。

 林田氏は、「日本の試験における大動脈弁輪破裂は1.6%にとどまっていたが、弁輪破裂自体それほど頻度が高くないことや、症例数が64例と限られていたことが影響しているのではないか」と分析、「日本でも小柄な患者では弁輪破裂に注意したい」と語る。

 弁輪破裂を防ぐための方法として林田氏は、術前に実施する大動脈弁輪径の測定を、従来法のエコーではなく、CTで行うことを推奨する。CT画像を活用することで、大動脈弁輪の形状がより明瞭に分かり、最適なサイズのデバイスを選択することにつながるほか、石灰化の評価も同時に行えるためだ。

 TAVIデバイスは高額であり、長期の耐久性データも限られる。導入直後は思わぬ合併症が起きるリスクもある。林田氏は、「AVRハイリスク患者全てにTAVIを行うのではなく、適応を慎重に検討する必要がある」と指摘している。