関節リウマチ(RA)の早期診断、早期治療の重要性が指摘される中、欧州リウマチ学会(EULAR)がRA薬物治療の指針となるリコメンデーションを正式に発表した。膨大なエビデンスに基づいて作成された本リコメンデーションは、ACR/EULARが発表したRA新分類基準とともに、今後、世界のリウマチ医療の基本的指針に成り得ると考えられる。
 ただし、使用が推奨されている薬剤は欧州で承認されたものであり、日本での導入には、薬剤をはじめ、画像診断機器の普及などの医療事情を勘案し、独自のものを構築する必要がある。
 日本リウマチ学会でRA新分類基準などの導入を進めている慶應義塾大学医学部リウマチ内科教授の竹内勤氏に、本リコメンデーションの意義と今後登場する日本版RA治療ガイドラインの姿について聞いた。


 欧州リウマチ学会(EULAR)では、2008年頃から関節リウマチ(RA)のマネジメントについて検討を進め、その議論を基にRA治療リコメンデーションを作成した。2009年6月にコペンハーゲンで開催されたEULAR 2009で概要が報告された後、2010年5月にEULARの論文誌Annals of the Rheumatic Diseaseに掲載された。

 以前は、こうした国際的基準に位置付けられるリコメンデーションやガイドラインなどは、米国リウマチ学会(ACR)が主導してきたが、EULARの力が増してきた形だ。ACRは2008年にRA薬物治療に関する最新のリコメンデーションを発表しているが、今回のEULAR RA治療リコメンデーションは、ACRのものに比べ、薬剤選択よりも治療方針の選択を細かく規定しているのが特徴だ。

 本リコメンデーションは15項目で構成されており、治療戦略、特に抗リウマチ薬の治療をいつ開始するか、どのような抗リウマチ薬治療を展開するべきか、治療目標は何か、といった治療戦略上の項目をトップに挙げている。

 その骨子は、(1)RAと診断されたら可及的速やかに抗リウマチ薬を投与する。(2)すべての患者さんにおいて可及的速やかに臨床的寛解に導くことを目標とする、(3)そのため積極的な薬物療法(強化治療)を行うべき。特に予後不良因子がある患者には、より強化した治療法を選択する――というものだ。その上で、メトトレキサート(MTX)、生物学的製剤などの各々の薬剤について、どのような状態の時に投与すべきかを示している。

 このうち、1番目の「RAと診断されたら速やかに抗リウマチ薬を使う」、という項目については、2009年10月にACR 2009で発表され、2010年9月号のArthritis and Rheumatismに掲載されたACR/EULARのRA新分類基準とセットになっている。1987年にACRが定めた旧RA分類基準では、早期、特に発症6カ月までの患者の50%しかRAと診断できないとされ、早期治療の重要性が示された現在では適切な基準とはいえなくなったためだ。また2番目については、オーストリア・ウイーン大学のJosef Smolen氏らが推進している目標を設定した治療(Treat to Target)の動きと呼応している。

 抗リウマチ薬についてはMTXを“ゴールドスタンダード”とし、生物学的製剤は抗リウマチ薬では効果不十分のときに用いる。すなわち、Treat to Targetの考え方に基づき、臨床的寛解など、想定した治療目標に達していなければ、主に予後不良因子のある人たちに生物学的製剤の使用を考慮し、予後不良因子のない場合は、他の抗リウマチ薬の使用を考えるというものだ。

 生物学的製剤は、最初にTNF阻害薬を考える。1剤目のTNF阻害薬が効果不十分だった場合、別のTNF阻害薬か、リツキシマブ、アバタセプト、トシリズマブを用いるとしている。

 ただし、本リコメンデーションに提示されている具体的な薬剤は、欧州の承認状況に基づいている。EULARに加盟している欧州各国は今後、この方針に基づいてRA治療をしていくことになるだろう。

日本版RA診療ガイドラインはこうなる
 では、このEULAR RA治療リコメンデーションなどに対応する日本版のRA診療ガイドラインはどうすべきだろうか。

 現行の2004年版RA診療ガイドラインは、厚生労働省研究班が主導する形で作成した。しかし、ACRやEULARが今回のRA新分類基準やRA治療リコメンデーション、Treat to Targetなどで強いメッセージを発したのと同様、次のガイドラインについては、日本リウマチ学会が主導すべきではないか。既に生物学的製剤やMTX増量については、ガイドラインを出しているので、それらを含めた総合的な治療戦略を示すのがよいと思われる。

 改訂の機会があった2008年に刊行できず、既に6年経過してしまった。その一方で、MTXの高用量(成人用量増量)が近く承認される見通しで、場合によっては1剤目の抗リウマチ薬としても使えるようになる可能性もあるので、それを反映したガイドライン改訂ができる意義は大きい。

 新たな生物学的製剤としてアバタセプトも登場するが、同剤の市販後調査(PMS)が終了するのは2012年以降なので、MTX高用量投与が承認された時点で大改訂を行い、アバタセプトの市販後調査が終了した時点で小規模な改訂をするという考え方もある。

 RA分類新基準やEULAR RA治療リコメンデーションを導入し、早期に他の疾患を鑑別して、積極的治療をすることで関節破壊を抑えられることが日本でも実証できれば、関節リウマチに対する人工関節置換術は減り、介護保険の支払いも減少、QOL悪化も防ぐことができる事が期待され、社会的・経済的な意義は大きい。

 一方、早期診断・早期治療が強く叫ばれることで、病気が進んだ人は見捨てられるのではないかという不安が大きいので、進行期の患者に対する治療戦略も必要だ。こうした患者には低疾患活動性(LDA)を目標とした治療を行い、無理のない範囲で強化治療を施し、QOLをこれ以上悪化させないようにする必要がある。EULAR RA治療リコメンデーションやTreat to Targetのリコメンデーションではこうした配慮についても言及しており、極めて重要だ。(談)

(日経メディカル別冊)