治療の成績を左右する最大の要素は効果と安全性だが、患者にとってはコストや利便性、医療機関へのアクセシビリティ、医師とのコミュニケーションの取りやすさなども重要な要素だ。関節リウマチ(RA)領域では、患者の意見を取り入れた寛解基準が2010年に発表されるなど、「患者主体の治療」を目指す動きが活発化しているが、わが国において効果と安全性以外の要素が語られることは少ない。そこで、RA患者団体「日本リウマチ友の会」会長の長谷川三枝子氏と、患者視点のRA診療をモットーにする松原メイフラワー病院院長の松原司氏に、RA診療の現状と課題について討論していただいた。

生物学的製剤の登場により「RA患者の姿」が変わった!

松原 わが国のRA診療の場に生物学的製剤が登場してから9年が過ぎました。これにより、患者さんにはどのような変化が生まれましたか。

長谷川 疾患のコントロールが格段に良くなったと思います。日本リウマチ友の会が5年ごとに実施している患者実態調査の最新版(2010年)では、寛解に至った人の割合が前回調査時(2005年)の2倍以上に増え、一方で手術件数は約12%減少していました。私自身、RA罹病歴は50年になりますが、これほど劇的に患者の姿が変わる薬剤は初めてです。

松原 患者さんの変化は医師の目にもよく分かります。われわれの施設では、手術の件数は12%どころか50%以上減りました。手術せざるを得ない状態になる時期も確実に遅くなっています。

長谷川 昔はRA発症後10年程度で手術が必要になる人が多かったのですが、当時は女性が手術のために2、3カ月も入院するのは難しく、手術を先延ばしにした結果、膝が「く」の字になるほど変形がひどくなった人も少なからずいました。

松原 そうですね。最近はそこまでひどい状態の人はあまり見かけませんし、膝や股関節などの荷重関節の手術自体が減っています。その一方で、手足の指の変形を治す手術など、より良い機能や外観を得るための手術が増えています。生物学的製剤が登場し、治療のアウトカムが向上したことにより、患者さんが求めるゴールも一段高くなったということでしょうね。

松原 生物学的製剤の安全性について不安の声はありましたか。

長谷川 もちろんありました。でも、感染症リスクなどもきちんと公表されていましたし、市販後全例調査(PMS)の実施が義務づけられましたので、患者も安心感を得られていたようです。

松原 海外で開発された薬は国内での第3相試験をスキップして承認されることが多いので、PMS制度は安全性の貴重な情報源です。こうした制度は高く評価できますね。

長谷川 そう思います。

障害を防ぐ薬なのに障害者でなければ医療費補助が受けられないという矛盾

松原 しかし、生物学的製剤の登場は良いことばかりではなかったと思います。何より高価な薬ですから、経済的な負担はかなり大きいのではないでしょうか。

長谷川 実をいうと、生物学的製剤が承認されて間もない頃は、投与対象のほとんどが重度の身体障害を抱えた人でしたので、公的な補助が適用され、医療費の問題はあまり前面に出てきませんでした。しかし、治療の裾野が広がった今では、薬価に関する切実な相談が非常に多くなっています。

 RAが国の難病指定から外れて以来、「身体障害者手帳の交付を受け、福祉制度の活用で療養生活を乗り切る」という時代が長く続きました。しかし、生物学的製剤などの優れた治療薬が登場した現在では、早期から適切に治療すれば、患者は身体機能を障害されずに済みます。そうすれば、多くの患者が仕事を続けられ、社会的な経済損失もかなり抑えられるはずです。

 それなのに、身体障害者手帳がないために補助が受けられない、そのために経済的な理由で生物学的製剤を使うことができない、その結果、身体機能が損なわれ重症化する、そこで初めて医療費の補助が受けられて生物学的製剤が使える――これでは本末転倒です。そうならないために生物学的製剤を導入した人からも、収入のほとんどが薬剤費に消え、経済的な困窮を強いられているという訴えがあります。

松原 非常に矛盾した状況ですね。早急に改善を求めていく必要があると思います。そのためには、生物学的製剤を早期から使うことによって生じる経費と、使わなかった場合に生じる後々の医療費、および家庭や社会が蒙る経済的な負担についての客観的なデータが欲しいところです。日本リウマチ学会や日本リウマチ友の会などが協力してデータを取ることを考えていくべきかもしれません。

長谷川 そういうことも考えていかなければならないですね。

正しい病識を持つ患者は治療の最大の協力者

松原 私は患者さんが正しい知識を得たいと考えることは非常にいいことだと思っています。RA治療の場では最近、「Treat to Target(T2T)=目標達成に向けた治療」という概念が提唱されています。この実践には患者さんの正しい理解と協力が欠かせません。

 T2Tに基づく最新のRA治療では、可能な限り、疾患活動性が極めて低い「寛解」を目指します。この寛解の判定基準の中には、VAS(visual analog scale)を用いた患者さん自身による全般評価という項目がありますので、患者さんが自分の状態を正しく評価できなければ、正確な判定ができません。

 一部には、「判定の精度を高めるためには患者VASを外すべきではないか」という意見もありますが、私はこの意見には反対です。なぜなら、治療学の主体はあくまでも患者さんだからです。患者さんが良いと思わない治療は良い治療とは呼べません。

 とはいえ、正しい評価ができないことはやはり問題です。そこでわれわれの施設では、スケール0の状態とスケール10の状態を、RA発症前の健康だった頃と最も状態が悪かった頃として、具体的にイメージしてもらうようにしています。このような過程を省いて、ただ「今の状態に当てはまるところに線を引いてください」と言っても、答えがぶれるのは当たり前です。

長谷川 患者が正しい知識を持つことで、主治医とのコミュニケーションが取りやすくなります。「友の会」の入会理由のトップは、「正しい知識と情報を得るため」ですが、実際に入会して何が変わったかと訊ねると、「主治医との良好な関係を作れるようになった」という答えが少なくありません。患者が一生懸命だと主治医も一生懸命になってくれます。これは非常に大切なことだと思います。

松原 同感です。T2Tは医師が単独で実践できることではありません。昔から、「正しい病識を持つ患者は治療の最大の協力者である」と言われていますが、まさに真理だと思います。

すべての患者が良質な治療を受けられる体制の整備が課題

松原 正しい知識と情報が求められるのは医療者も同様です。しかし、全国70万人ものRA患者さんを専門医だけで診るのは不可能ですので、RAを専門としないかかりつけ医の先生方にもT2Tの概念の浸透を図り、併せて病診連携の体制を整えることが必要だろうと思います。具体的には、専門医と密に連携を取りながら地域で診療に当たる「かかりつけリウマチ医」のような形で治療にご協力いただけないかと考えています。

長谷川 それはぜひともお願いしたいと思います。「地域差」という言葉はあまり使いたくないのですが、実際、専門医が一人もいない地域もあります。そうした地域であっても、病診連携がしっかりしていて、信頼できるかかりつけ医の先生がいれば、患者は安心して診てもらうことができます。

松原 どこに住んでいても同じ水準の診療が期待できるシステムを作ることは、日本のRA治療全体のレベルアップのためにも必要ですね。

(談話まとめ 宇田川久美子=医学ライター)