関節リウマチは比較的若い40〜50歳代の女性に好発する。専業主婦を含めて働き盛りが多く、子供の学費など家計の出費も多いため、高額な治療をためらうことも少なくないという。医療費から地域間格差まで、リウマチ医療の課題は多い。患者視点のリウマチ診療を実現するにはどうするべきなのか。名古屋大学整形外科教授の石黒 直樹氏に聞いた。

 関節リウマチ(RA)患者さんの「思い」を知る上で私がよく参考にするのが、日本リウマチ友の会のアンケート調査結果です。その中に示されているRA治療の最大のアンメットニーズとは何だと思いますか。

 実はこの病気で患者さんが何よりも希望しているのは、「治癒」なのです。われわれはまだその希望に応えられていませんが。

 でも発想を変えてみましょう。私自身は高血圧でいったん入院もしましたが、今では海外にも出かけ、ときには深酒もします。これは薬物治療のおかげです。

 私はRAの患者さんに対して、「薬をのんだり手術をすることで自分の生活が楽しめます。痛みがなく普通に暮らせれば、治っているのと同じ。苦しまないことが大切です」と伝えています。治療を続けるうちに医学が進歩して治る薬ができるかもしれない。その日が来るのを信じて治療を受けていただくことが大切です。

 一方でRA患者さんは、将来不自由になること、家族の世話になることを大変気にします。それならばなおさら、治らないことを嘆く前に、治療で今の状態を保つことが重要です。

医師もコスト・エフェクティブネスを考慮すべき
 RA治療で大切なことは、MTXや従来の抗リウマチ薬(DMARDs)をしっかり使うことです。それでかなりの患者さんを有効に治療できるし、生物学的製剤が必要になった時にも、十分にその機能を発揮させることができます。結局、これが最も経済的であり、かつ患者さんに大きな福音をもたらすものだと思います。

 生物学的製剤の効力を十分に発揮させることができなければ、コスト・エフェクティブネスが大きく落ちてしまいます。こういう時代になると、医師もコスト・エフェクティブネスの発想が必要だと考えています。

 患者視点の治療とは、患者さんが本当は何を望んでいるのかを知り、それを正確に提供することだと思います。その意味では治療費の問題も重要です。「石黒先生は薬をのんでいればよくなると言うけど、そんなに高い薬、高い治療は長く続けられない」と患者さんに言われます。その通りだと思います。今の薬剤は正直言って高すぎます。

 日本には高額療養費制度があって、実際の患者さんの支払額は比較的低く抑えられる場合がありますが、国全体で見れば負担額は少なくありません。経済性の問題を取り上げるのは難しいことですが、患者視点で見れば、やはり高すぎることは伝えていく必要があります。私たちも、なるべく安い薬剤を使うといった意思表示を続け、患者さんにメリットが生じるようにすることが大切だと思っています。

 経済性について考える場合、患者さんは窓口で直接支払う金額を最も問題にします。しかし、将来にわたって掛かってくるコストも考えなければいけません。

 たとえば、家族の世話になる、将来手術を必要とする、あるいは寝たきりになるといった事態が起きると、それにかかわる本人や介護者の労働機会の損失は大きく、介護費用も掛かります。直接的なコストばかりに目を奪われると、本当のところを見失います。

 クレジットカードのCMで「プライスレス」というキャッチフレーズが流行りましたが、医師はRA患者さんに対し、将来の健康は「プライスレス」かもしれないことを伝える必要があると思います。私は自分の患者さんにそう説明しています。

 過去の研究から、Sharpスコアが50を超えるとフルタイムの就業率が激減することが分かっています。労働損失を起こさないためには、そこまで悪化する前に治療開始することが必要です。将来的に健康であることは、将来性を保証することでもあります。

 患者さんの話を聞くと、「今のままならいい」とよく言います。しかし、関節に炎症が出ていれば、「今のまま」ではいられないというのが医師側の理解です。放置すれば骨破壊が進んでしまいますから。

 薬剤投与の方式も重要です。患者さんの治療意欲を向上させるという点で、私は自己投与が可能な皮下注射製剤に注目しています。治療自体に参加することが患者さんを強くするからです。「あなたが自分で治しているんだ」、「自分でよくなっているんだ」と励ますことができる。下手な教育よりもよほど効果があると思っています。

 ただし、患者さんの中には点滴による治療を必要とする方もいます。点滴は非常に分かりやすい医療行為で、「私は病院に行って点滴をして良くなる」と思うことができるからだと思います。このような患者さんを無理やり自己皮下注射にもっていくのは問題があります。要は患者さん一人ひとりに合う治療の選択が重要です。

医師同士、顔の見える関係を構築して患者さんを診るべき
 患者さんのための医療ネットワークの役割も考える必要があります。ネットワークには、適正な医療を提供するネットワークと安全性を確保するためのネットワークの2つがあり、どちらも不可欠です。

 この2つを実現する場合、24時間開いている救急外来を持つ大病院と開業医の先生方とのコラボレーションは意義があります。院外だけでなく、院内でもこうした連携は必要で、名古屋大病院の場合、呼吸器内科、腎臓内科、肝臓科、整形外科とリウマチ医が連携しています。

 日本人に一般的に多いとされる呼吸器症、特にニューモシスチス肺炎(PCP)、リウマチ性肺炎、間質性肺炎に関しては、呼吸器内科医との連携が必要ですし、長期間の薬剤使用やアミロイドなどで腎臓障害も懸念されますので、腎臓内科医の協力も欠かせません。医師同士がお互いに顔の見える関係は重要です。

 現在、各地でリウマチネットワークを標榜する連携が始まっています。こうした連携が広がり、勉強会や問題症例の情報共有によって全体的な治療水準が向上すれば、関節リウマチ医療の均質化が進み、患者さんにとって大きな意味を持つでしょう。

 こうした連携において、治療の継続性を担保するには、医師同士の共通認識が必要です。連携と言いながら、別の医師に代わったとたん、異なる治療方針になったら、患者さんは不安に陥ります。それはあってはならないことだと思います。

 常に患者さんの利益を最大化する――それが患者視点の治療です。患者さんの側に立ち、この人は何を望んでいるのか、どうしてほしいのか、何が利益になるのかを考えます。その際、医師は将来の健康の意味を理解しているはずなので、最大限の努力を払って患者さんに伝え、考えてもらうべきだと思います。

(日経メディカル別冊編集)