国内で、新型インフルエンザをはじめとする未知の感染症が確認された場合に備え、自院の「診療継続計画」を作っておくことは、とても重要だ。しかし、単独の医療機関が一から診療継続計画を作成するのは容易なことではない。そこで、医療機関が限られた時間で効率的に「診療継続計画」を検討することを支援する目的で、診療継続計画作りの手引きと作成例が公開された。作成にあたった日立横浜病院小田原健康管理センタ(産業医)の石丸知宏氏らに、要点を解説していただいた(パンデミックに挑む編集)。


株式会社日立製作所日立横浜病院小田原健康管理センタ 産業医 石丸知宏
公益財団法人労働科学研究所国際協力センター センター長 吉川 徹
独立行政法人国立国際医療研究センター 国際医療協力局 和田耕治

日立横浜病院小田原健康管理センタの石丸知宏氏

 新型インフルエンザ等対策特別措置法(以下、特措法という)が施行され、それに基づく行動計画が策定された。これにより今後は新型インフルエンザなど、未知の感染症が国内で確認された場合の「診療継続計画」を、それぞれの医療機関の規模や特性に応じてあらかじめ策定する必要が出てくる。

 しかし、単独の医療機関が一から診療継続計画を作成するのは容易ではない。時間的余裕もノウハウも不足している医療機関が限られた時間で効率的に準備するのを支援するために、診療継続計画作りの手引きと作成例が8月16日に公開された。

 ここでは、今回公開された内容の紹介を通して、医療機関がどのように新型インフルエンザ等への対策に取り組めばよいか解説したい。

◆平成24年度厚労科研費新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究事業「新型インフルエンザ発生時の公衆衛生対策の再構築に関する研究」(研究代表者:東北大学 押谷 仁)
医療機関における診療継続計画作りのためのツール

なぜ特措法が診療継続計画の作成に関係しているのか?


 特措法の目的は、新型インフルエンザ等の流行から国民の命や健康を守りつつ、生活や経済に及ぼす影響を最小にすることである。行政機関だけでは新型インフルエンザ等への対策は実施困難なため、指定された公益的事業を営む法人(指定公共機関/指定地方公共機関)も協力する責務を負う仕組みとなっている。

 これらの機関に指定された場合、新型インフルエンザ等への対策を実施するために、診療継続計画などの業務計画を作成したり、必要物資を備蓄することが義務付けられる。すでに国立病院機構、日本赤十字社、日本医師会等が指定公共機関に登録されているが、その他の医療機関も、今後の地方公共団体の行動計画において、その機能・活動が位置付けられ、指定地方公共機関に登録される可能性がある。

 また、優先的なプレパンデミックワクチン接種の対象となる特定接種の事前登録を受けた医療機関(厚生労働大臣登録事業者)についても同様に診療継続計画の策定が必要となる。

診療継続計画とは


 新型インフルエンザが流行した際に、医療機関にどのような影響があるだろうか? 政府の行動計画によると、新型インフルエンザによるパンデミックにより、国内で医療機関を受診する患者数は最大2500万人、欠勤する従業員の割合は最大40%、入院患者数53万〜200万人、死亡者数17万〜64万人にも上ると想定されている。

 多くの医療機関が平時から限界に近い状況で診療しているため、通常の患者診療に加えて、新型インフルエンザ患者の対応を行えば、早々にその対応能力の限界を超えてしまうことが予想される。また、職員やその家族が感染したり、学校の臨時休業などにより出勤可能な職員が減ること、医薬品の供給がストップする可能性もある。パンデミック時には、十分な準備ができている医療機関でも様々な課題が浮上するだろう。

 そのような事態においても診療を継続するためにあらかじめ対処の方針を検討して文章で記載したものが「診療継続計画」である。一般的には事業継続計画(Business Continuity Plan: BCP、ビーシーピー)と呼ばれている。

 診療継続計画は新型インフルエンザ等の新感染症だけでなく、地震や火災、津波などの自然災害や天然痘、炭疽菌等のバイオテロが発生した際の危機管理にも運用できる。また、特措法への対応のみならず、自身の医療機関の方針や体制、感染症対策を見直す良い機会になる。診療継続計画を策定するメリットを整理してみた(表1)。

表1 診療継続計画を策定するメリット
● 地域医療における施設の役割確認と対応方針、対応組織体制の決定
● 疾病流行の非常事態に即した医療提供体制への速やかな移行準備
● 流行時における院内感染の防止
● 職員の安全と健康の確保
● 診療継続のための事務機能、財務管理の見直し、強化
● 情報収集、発信、共有体制の確立

診療継続計画作りの進め方


 診療継続計画の作成は、地域の行動計画など必要な情報を収集し、それぞれの地域の中で各医療機関に期待されている役割や方針を確認することから始めるとよい。次に、診療や施設機能の維持を担当するスタッフが話し合う場を持ち、流行前に準備しておくべき事項、流行期ごとに優先し維持する診療業務、職員体制や施設の維持に必要な事項、今後の課題等を検討する。完成後にはスタッフ全員に周知して、定期的に見直しを行う、のが一連の流れである。

 しかし、単独の医療機関が一から診療継続計画を作成するのは容易ではない。限られた時間で効率的に準備するために、今回公開された診療継続計画作りの手引きや作成例を活用するとよいだろう。

新型インフルエンザ等発生時の診療継続計画作りの手引き

 これは診療継続計画作りのガイドブックである。医療機関が診療継続計画を作成する際の考え方や具体的なポイントを簡潔に解説している。巻末には各施設ですぐに使える無床診療所と小〜中規模病院の診療継続計画の作成例を掲載している。各施設でこれらの作成例をもとに必要、不必要箇所を削除または追記すれば、簡単に自分の施設の診療継続計画を作成することができる。

 すでに何らかの新型インフルエンザ対策を行っている医療機関には、下記のようなツールもある。

パンデミック・インフルエンザに対する病院管理体制チェックリスト

 これはパンデミック(H1N1)2009流行時に、医療機関が診療継続可能な体制を確立するためにWHO欧州地域事務局が作成した書籍の日本語訳である。

 医療機関における新型インフルエンザ対策を11の分野のチェックリストで解説しており、全て読むのに1時間もかからない。すでに対策を行っている医療機関は、チェック作業を通して自身の対策を評価し、弱点を洗い出すことが出来る。国際的な水準での新型インフルエンザ対策に興味がある方にもお勧めしたい。

終わりに


 診療継続計画の策定にあたっては、最初から完璧なものを作成しようと思う必要はない。まずは最初の数ページの概要・見出しだけ作成する、総論と未発生期の対応のみ作成する、作成例を大いに活用する、のも一つの方法である。

 今回紹介した診療継続計画作りの手引きや作成例を手元に、新型インフルエンザ等が発生した場合、自身の医療機関にどのような対応が求められるか、今準備しておくことは何かなど、簡単な話し合いの場を持つことから始めてみるとよいだろう。