和田耕治氏

 新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づいた行動計画について、多くの都道府県が検討を開始している。今後、市町村においても専門家と協議をしながら行動計画を作成することが求められていることから、医師が地元の市町村などから意見を求められることもあるだろう。ここでは、最近示された「新型インフルエンザ等行動計画作成の手引き」をもとに、保健所を設置していない市町村での10のステップについて解説したい。

 市町村において行動計画を作成することは、必ずしも容易ではない。特に、保健所を設置していない規模の市町村において作成することは難しい。2009年に新型インフルエンザA(H1N1)を経験した人もすでに部署を離れていることも多い。また、今回は危機管理担当者との連携も必要となっている。しかし、危機管理担当者の多くは、これまで健康の分野に関わることが少なかった人で、さらに議論を進める上での障害にさえなっている。

 そうしたことを勘案して、「市町村(保健所を設置していない規模)のために行動計画を作成するための手引き」と参考となるサイトを開設した。詳細については、ホームページにて手引き(PDF)やワークシートを参照いただきたい。

 ここでは「手引き」の活用方法について概説したい。

 手引きではそれぞれのステップを10にまとめたのが大きな特徴となっている。それぞれの重みは異なるが、一つずつ進めて行くことを意図してまとめたものだ。

 本文中の「行p」は政府の行動計画の、「ガp」は政府のガイドラインのページを表しており、それぞれを参考にしながら進められるように配慮している。

<作成における注意点>

 行動計画の作成においては様々な議論が出てくるはず。特に「どのように行うか」というマニュアルに記載すべきところが焦点となるだろう。

 行動計画はあくまで新型インフルエンザ等の対策の入り口であり、まずはここを固めてから、1、2年かけてマニュアルなどを整備する必要がある。実際には、行動計画においては市町村における自由度は少なく、最低限盛り込むことは法令で示されている。そのため、行動計画作成に新型インフルエンザ等の対策の多くの時間と労力を使いすぎないようにして、マニュアルなどの具体的なことを継続して検討することが望まれる。

 また、緊急事態宣言における対応のイメージが十分に定まらないこともあって、ややここの議論に時間をかけすぎるきらいがある。まずは緊急事態宣言以外の対応を十分に検討し、緊急事態宣言が出た場合には柔軟に対応することを方針として記載するという段取りが、この手引きが対象とする市町村に求められることと筆者は考えている。

 行動計画の作成にあたっては、「読者」を想定する必要がある。最初の読者は、市町村内の担当部署の人々であり、まずはここでコンセンサスを作る必要がある。さらには議会に報告することになる。議会への報告は、各市町村においてその方法に違いがあるため、議会の事務局と相談すると良いだろう。例としては、全員協議会があげられる(これについては議案にはなじまないであろうという意見がある)。

 最終的な読者は、市町村職員ならびに、新型インフルエンザ等が発生した際に係わる人々である。行動計画を作成した人以外も理解できるような工夫をしなければならないが、一方で簡便なものにする方が望ましいという意見もありバランスが必要となる。 

 さらに、法令や国や都道府県の行動計画、ガイドラインにすでに記載されていることは、あまり市町村行動計画には不要という意見もあれば、有事においても市町村行動計画さえ読めば行動ができるようにするべきとする意見もある。記載するべきこととしては、予算を必要とすることは市町村行動計画においても記載することが望ましいという意見もあったことを指摘しておきたい。

 これらを市町村内において早めにコンセンサスを作りながら進める方がよいであろう。

表1 市町村行動計画を作成するための10のステップ

 以下、市町村行動計画を作成するための10のステップについて、ポイントをみていこう。

Step1. 市町村行動計画作成のための担当者の決定と学習

(1)担当者の決定
 市町村においてはこれまでに新型インフルエンザに関する行動計画を策定しているところは少なくない。健康に関係する部署が主に作成していたが、新型インフルエンザ等対策特別措置法を内閣官房が所管するように、これまで以上に危機管理としての対応が求められるようになっている。

 そのため、行動計画作成にあたっては、市町村長の指示のもと危機管理担当部署または災害(防災)対策担当部署が主導し、公衆衛生(保健衛生)担当部署は保健・医療に係わる部分の計画を策定し、さらに様々な部署を交えて作成することが考えられる。また市町村によっては従来通り公衆衛生(保健衛生)担当部署が主導することも考えられるが、いずれにしても全庁的な取り組みになるような体制を構築する。

(2)策定にあたって理解すべきこと
 担当者が決まった次に行うべき事は担当者への学習機会の提供である。

 1)市町村行動計画の法的根拠
 なによりも最初に担当者が理解しなければならないのは、市町村行動計画の作成が求められる根拠となっている新型インフルエンザ等対策特別措置法の第八条である。

(市町村行動計画)
第八条
市町村長は、都道府県行動計画に基づき、当該市町村の区域に係る新型インフルエンザ等対策の実施に関する計画(以下「市町村行動計画」という。)を作成するものとする。
2 市町村行動計画においては、おおむね次に掲げる事項を定めるものとする。
 一 当該市町村の区域に係る新型インフルエンザ等対策の総合的な推進に関する事項
 二 市町村が実施する次に掲げる措置に関する事項
  イ 新型インフルエンザ等に関する情報の事業者及び住民への適切な方法による提供
  ロ 住民に対する予防接種の実施その他の新型インフルエンザ等のまん延の防止に関する措置
  ハ 生活環境の保全その他の住民の生活及び地域経済の安定に関する措置
 三 新型インフルエンザ等対策を実施するための体制に関する事項
 四 新型インフルエンザ等対策の実施に関する他の地方公共団体その他の関係機関との連携に関する事項
 五 前各号に掲げるもののほか、当該市町村の区域に係る新型インフルエンザ等対策に関し市町村長が必要と認める事項
3 市町村長は、市町村行動計画を作成する場合において、他の地方公共団体と関係がある事項を定めるときは、当該他の地方公共団体の長の意見を聴かなければならない。
4 市町村長は、市町村行動計画を作成したときは、都道府県知事に報告しなければならない。
5 都道府県知事は、前項の規定により報告を受けた市町村行動計画について、必要があると認めるときは、当該市町村長に対し、必要な助言又は勧告をすることができる。
6 市町村長は、市町村行動計画を作成したときは、速やかに、これを議会に報告するとともに、公表しなければならない。
7 第六条第五項及び前条第七項の規定は、市町村行動計画の作成について準用する。
8 第三項から前項までの規定は、市町村行動計画の変更について準用する。

 市町村の行動計画においては、第八条に含まれたことを記載することが求められる。分類すると以下のように分けることができる。これらをStep4の各論で作成することとなる。

(1)対策を実施するための体制
(2)情報収集と適切な方法による情報提供(事業者や住民)
(3)まん延の防止に関する措置
(4)住民に対する予防接種の実施
(5)生活環境の保全その他の住民の生活及び地域経済の安定に関する措置

 2)新型インフルエンザ等に関する学習
 市町村において作成にあたる担当者が新型インフルエンザ等の感染症対策についてある程度の理解がないと議論がまとまらない可能性がある。そうした場合には基本的なことを学ぶためのビデオが作成され、youtubeまたはyoutubeが見れない市町村においてはビデオが以下のサイトでダウンロードできる(平成22年度厚生労働科学研究費により作成)。

 これは初級編など4つのパートに分かれており、全体56分で基本的なことを学ぶことができる。また、ビデオで使われている資料も無料でダウンロードできる(パスワードが必要: kitasato [すべて小文字])。

◆ 都道府県・市町村担当者を対象とした新型インフルエンザ等対策特別措置法に対応するための医学的・公衆衛生学的知識

 なお、政府のガイドラインの最後に添付されている参考資料も新型インフルエンザ等に関連する基本的な用語解説などがされており、ぜひ参照してほしい。

 3)作成に参考とすべき文書 
 作成にあたっては以下の文書を理解する必要がある。多くの文章が内閣官房のサイトにて入手できる。

 1.新型インフルエンザ等対策特別措置法(以下、特措法)、並びに同法施行令
 行動計画とガイドラインのもとになっており、適宜用語や背景を確認する際に用いる必要がある。

 2.新型インフルエンザ等対策政府行動計画
 政府の行動計画であるが、新型インフルエンザ等対策の実施に関する基本的な方針と各段階における対策が示されている。主にStep3で作成する市町村行動計画の総論部分は共通するところが多い。
 
 3.新型インフルエンザ等対策ガイドライン
 新型インフルエンザ等対策政府行動計画を踏まえ、各分野における対策の具体的な内容・実施により国のみならず、地方公共団体、医療機関、事業者、家庭、個人等における具体的な取組をより促進することを目指すものである。

 10のガイドラインが示されている。ここでは、それぞれのガイドラインについて特に市町村が把握しておきたいことを記述した。市町村と関係ないことも含まれているため選択して読み進んでほしい。

 4.都道府県行動計画ならびにこれまでに作成した市町村の行動計画
 都道府県の行動計画は必須である。また、すでに多くの市町村が新型インフルエンザに対応した行動計画を作成しているため、過去に作成したものをベースにすると良い。また、近隣の市町村の行動計画も参考になるであろう。それぞれホームページなどに掲載されていることが多いため入手できる。

Step3. 総論部分を検討する

 3-1. はじめに
 これまでの市町村新型インフルエンザ行動計画にもあるように市町村長名で目的と、行動計画の意味づけなどを示すことができる。また、考慮すべき点などあれば記載することが求められる。さらに策定の背景を記載するのもよい。

 3-2. 新型インフルエンザ等対策の基本方針
 行動計画の総論にあたるが、政府の新型インフルエンザ等行動計画の総論に詳しく示されており、これらを踏まえて作成するとよいであろう。

 ワークシート1を用いて検討ができる。ワークシートにおいては、「行動計画に必要なものを選ぶ」よりも「行動計画にはなじまない、必要ない」ものを削除する方が方法としてはやりやすいであろう。ワークシートにはできるだけ多くの項目が残してある。ボリュームが多いが、全体的な方針などが含まれているため行動計画に入れるべき事項が多く、マニュアルにもさらに記載が必要になる傾向がある。

 行動計画やガイドラインでは主語がより明確となっている。都道府県、保健所を設置する市、「市町村」、そしてこれら全部を意味する「地方公共団体」という言葉が使われている。そのため、まずはこれらの言葉から拾い上げることも考慮する。

 都道府県が主体となって行うことにも市町村として協力することも求められていることもあるため、行動計画に必要に応じて記載する。

Step4. 各論部分を検討する

 ワークシート2では政府のガイドラインから多くが選択されているため市町村行動計画ではなく市町村の「マニュアル」に含むべきことが増えてくるであろう。市町村行動計画は議会や都道府県に報告していることからその変更において手続きが必要となる可能性もあるとするならば概要を記載してマニュアルに詳細を記載することとなるであろう。

 なお、ワークシートは行動計画やガイドラインをもとに作成され、一部はそのままであるが、一部は主語を市町村に変えたものである。ワークシートの文章はそのままではなく、それぞれの市町村でさらに読みやすくしたり、市町村の規模に合わないことは削除することが期待される(Step5)。

Step5. 文章を読みやすくする

 これまでの文章は法令に基づいたものも多く読者によっては読みにくいものがある。この段階で読み手を想定してさらに読みやすいものに改訂する。

Step6.行動計画のフォーマットに合わせる

 Step4の各論は特に項目別に作成した方が作りやすい。しかし、読者としては段階ごとに読んだ方が分かりやすいことや、国や都道府県の行動計画も多くは段階ごとであることから、それにあわせたフォーマットを使うことを決めた場合(Step2)には、この段階でフォーマットを合わせる。

Step7. 市町村内部での合意と市町村議会、都道府県知事への報告

 市町村内部での合意(市町村長の合意も含む)の後に特措法第八条に基づいて議会に報告する。議会への報告は各市町村においてその方法に違いがあるため議会の事務局と相談すると良い。

Step8. 市町村民への公表

 市町村民への公表については、HPや市町村の広報誌を通じて行う。市町村によってはパブリックコメントなどを必要に応じて行う。

Step9. マニュアル、事業継続計画の作成

 市町村行動計画ができたあとは、それぞれの項目が実際に運用可能なようにマニュアルを作成する必要がある。担当部署を決め、お互いに内容についても吟味しておく必要がある。またこの段階では、新型インフルエンザ等流行時の事業を継続するための計画の作成も必要である。職員が減った場合においても重要業務が優先して行い、市町村民の生活を維持できるような計画を作成しておく必要がある。

Step10. 訓練ならびに必要な市町村行動計画の改定

 新型インフルエンザ等対策特別措置法第十二条にあるように訓練や演習を行う必要がある。代表的には机上訓練を行い、それぞれにおいて行動計画やマニュアルに不備がないかを確認し、必要に応じて改訂を行う。

おわりに

 市町村には危機管理のおいても様々なことが求められており、その対応に追われているようである。リソースが十分にない場合には市町村がお互いに連携をしながら進めると良いであろう。新型インフルエンザ等の議論をきっかけにして感染症だけではなく、様々な自然災害などにおいてもより連携が深まり、平時からの対策が進み、さらに有事にも被害を最小限にできるようになることが求められている。

 なお、本資料は平成25年度厚生労働科学研究費補助金(新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究事業):新型インフルエンザ発生時の公衆衛生対策の再構築に関する研究によって作成されたものである。


*手引きの詳細は以下をご覧ください。
市町村(保健所を設置していない規模)のための新型インフルエンザ等行動計画作成の手引き