Saudi ministry: Six new coronavirus cases detected

 5月13日から14日にかけて、サウジアラビア保健省新型コロナウイルスNCoVの新たな感染者6例の発生を発表した(1)。その中の2例が医療従事者(発表によれば看護師)が入っていたことに衝撃が走っている。このウイルスがヒト‐ヒト感染で拡大していくのか否か――。フランスの第1例と同じ病室の入院患者1人に感染が確認されたこともうけ、WHOが限定的ヒト‐ヒト感染可能性に言及(2)したばかりのタイミングで、こんどは医療従事者への院内感染が確認されてしまった。

 感染者のケアにあたった医療従事者の感染。2003年のSARS流行では、医療者の感染が次々に発生し、ヒト‐ヒト感染の新たなステップに入ったことを嫌がおうにも世間に印象づける結果となった。病院敷地を囲むテープが張られ、固く閉じられた扉から悲しげに外を見る医療従事者の姿が新聞の一面を飾ったりした。

 ここで懸念されることは、ヒト‐ヒト感染の進行以外にもう1つある。医療崩壊の可能性だ。

 2003年の北京では、たとえば中日友好病院では医療従事者の帰宅を禁止し、近所の借り上げホテルに滞在義務付けた。医療従事者には一定時間ごとに交代させ、集団で病院と借り上げホテルの行き来の日々を強いていた。軍隊式そのものだ。中国マスコミは彼ら彼女らを讃えに讃えてモチベーション維持に腐心した。「白衣戦士に敬礼を!」「一致団結しSARSと戦う白衣の戦士、無私奉献」「職業精神でいささかも恐れない」「妻子に祝福を」「老看護師危険な一線へ」「共産党支部慰問メッセージ贈る」「がんばって私の愛する人」「白衣天使の父母の心を敬う SARS攻撃第一現場」「白衣戦士は新たな功績をあげ、経済戦線はさらに発展加速せねばならない」などなど(3)。強権的に医療従事者の行動を規定し、モチベーションを上げる姿勢が強烈だった。

 これに対して、サウジアラビアはじめ中東では事情が異なる。オイルマネーで潤う自国民は、医療のようにトレーニングが厳しく、かつ“しんどい”仕事は敬遠傾向だ。代わりに担っているのがアジアやアフリカから出稼ぎにきた医療者だ。フィリピン人看護師やインド人医師の姿は頻繁に見かける。私が前職、外務省時代にスーダンに在勤していた時、かの国の医学部卒業生の少なからぬ割合は祖国に残らず湾岸産油国に人材流出してしまうという嘆きの声を耳にした(4)。政府が「一致団結して戦う白衣戦士だ愛国戦士だ」などと鼓舞しようにも、もともと異国籍人なのだから、「国に帰ります」と言われてしまえばそれまでだ。医療従事者の感染がはっきり表になってしまった今後、火元の中東で医療現場のマンパワーがどのように推移していくのかが懸念されるゆえんだ。

 さて、わが日本国。モンスター患者の存在や「たらい回し」なる妙な表現を一向にやめない一部マスコミを持ち出すまでもなく、この国は、社会全体として医療従事者のモチベーションを維持し持ち上げることが少々苦手なようにも見える(少なくとも2003年中国を観察した⽬には、かの国にかなり水を開けられているように映っていた)。WHOが各国に対して注意喚起を出し、決して対岸の火事ではなくなった“Xデー”に向けて体制を見直すべきときではないだろうか。 

■参考情報
(1)Saudi ministry: Six new coronavirus cases detected
(2)Novel Coronavirus Might Spread Between Humans, Says World Health Organization
(3)勝田吉彰:中国におけるSARS報道 −新型インフルエンザ報道へのヒントをさぐるー 近畿医療福祉大学紀要 9:71-76 2008
(4)勝田吉彰:ドクトル外交官のスーダン見聞録 131-133 世界の動き社 1998 東京