鳥インフルエンザA(H7N9)ヒト感染例が連日几帳面に報告され続けている。一見単調な報道のなかに、ドキンとさせられるものがある。旅行先の湖南省で発症して上海に戻りケロリと回復した小児例だ。

 4月16日に上海から湖南省に旅行。翌17日旅行先で発症し医療機関を受診、19日に上海に戻ってきた。湖南省で受診時の検体でH7N9感染確認。その後治癒したことが正式に発表されている(1)

 北京で報告された無症候例に続き、今回は軽症例の報告だ。この件で明らかになったのは、感染して“なにがしかの”症状を呈しながらも乗物に乗って旅行し動き回ることが可能なケースがあると正式にオーソライズされたようなものだ。

 この件でフラッシュバックするのが、SARS流行中の2003年5月8日から13日にかけて日本に観光旅行にやって来て、帰国後にSARS感染が判明した台湾人医師のケースだ(2)。感染が判明してから日本中がてんやわんやの大騒動になった。外出を控える人が出たり、この患者が通りすぎた何日も後に京都の重要文化財に消毒薬をぶっかけていた光景を洪水のような報道で記憶されている方も多いだろう。これに比類すること――感染者が日本のどこかを旅行してちょっと受診して出国してから表面化する――の発生も想定しておかねばならない。中国では間もなく五一節(労働節)の連休がはじまる。

 新興感染症ではしばしば、「本当に恐れなければらない部分」以上の社会不安が発生する。それは「感染者」や「その属する集団」や、「○○国から帰国してきた人々」などへの差別・いじめなど甚だ不合理な事象をもたらす結果にもなりうる。2009年のH1N1流行時には筆者は「医学的弱毒性、心理的強毒性」という言葉を使って世間に理解を促していた(3)

 不安や流言の流れる量は、“あいまいさ”と“重要さ”の積に比例するというオルポートとポストマンの法則が教えるように、世間一般の“あいまいさ”を減らす必要がある。今回、鳥インフルエンザA(H7N9)では医学的情報もそれなりに報道されてきていると思うが、引き続き、各メディア科学部には繰り返しの解説をお願いしたい。

■参考情報
(1)本市新增1例、回顾性诊断5例人感染H7N9禽流感确诊病例
(2)【SARS速報】 厚労省、日本に滞在した台湾医師が帰台後にSARS患者と確認された問題でQ&A
(3)「医学的弱毒性」なのに「心理的強毒性」な理由