内閣官房がパブリックコメントを募集するなど、新型インフルエンザ等対策特別措置法の施行へ向けた準備が進んでいる。いざ「緊急事態宣言」が発動されれば「知らなかった」ではすまない行動制限が求められるが、あなたがもしものときに冷静に行動するためにも、特措法に対する理解と納得は欠かせない。内閣官房新型インフルエンザ等対策室への取材をもとに、基本的な質問とそれに対する回答をまとめた。

■問1 特措法の対象となっている新型インフルエンザとはどんな病気ですか? 特措法ではそれ以外にどのような病気が含まれますか?

 「新型インフルエンザ」とは、国民の多くが免疫を持っていないために全国的かつ急速に感染拡大することが予想されるインフルエンザの1つです。これに対し、多くの人が感染して免疫を持っている、毎年流行するインフルエンザは「季節性インフルエンザ」と呼ばれています。2009年に世界的に大流行したH1N1も当初は「新型インフルエンザ」と呼ばれましたが、現在では多くの方がすでに感染を経験し、免疫を持っていますので、「季節性インフルエンザ」となりました。

 現時点では、ヒトの間で流行したことのない高い病原性の鳥インフルエンザ(H5N1)が鳥からヒトに偶発的に感染する事例が報告されていることから、新型インフルエンザの候補の1つと考えられ警戒されています。

 季節性インフルエンザを発症した場合、多くの方は1週間程度で治癒しますが、新型インフルエンザはほとんどの人が免疫を獲得していないため、世界的な大流行(パンデミック)となり、これが高い病原性のウイルスの場合は大きな健康被害とこれに伴う社会的影響をもたらす可能性もあり得ます。20世紀には3回新型インフルエンザが発生していて、そのうちスペインインフルエンザ(1918年)の流行が最大で、世界中で約4000万人が死亡したと推定されています。一方、2009年に発生した新型インフルエンザ(A/H1N1)では、日本の死亡者は約200人であり、諸外国と比較すると低い水準にとどまりました。

 また、未知の感染症である新感染症の中で、感染力が強く、社会的影響が大きいと判断されるものが発生した場合は、国家の危機管理として対応する必要があることから特措法の対象となります。


■問2 病原性の高い新型インフルエンザH5N1は本当に発生するのでしょうか。万一発生しても、抗インフルエンザ薬があるので大丈夫ではないでしょうか?

 新型インフルエンザがいつ、どのような規模で発生するかは、予測が困難ですが、20世紀には、スペインインフルエンザ(1918-1919年)、アジアインフルエンザ(1957-1958年)、香港インフルエンザ(1968-1969年)などが発生していることから、10年から40年に1度程度は発生するのではないかと考えられます。

 病原性が高い新型インフルエンザが起きなければ望ましいことですが、東南アジアなどでは高病原性鳥インフルエンザH5N1が鳥からヒトに偶発的な感染も継続しており、豚などを通じてウイルスがヒトからヒトに感染するように変異していく可能性は否定できません。政府としては、危機管理として警戒は行う必要があると考えています。

 抗インフルエンザウイルス薬は、新型インフルエンザ対策の重要な対策の1つであり、万一、発生した場合に不足することがないように、政府や都道府県でも備蓄をしています。一方で、抗インフルエンザ薬に耐性を持つ(抗インフルエンザウイルス薬が効きにくい)ウイルスが発生する懸念もあります。抗インフルエンザ薬投与により、鳥インフルエンザに感染した患者の死亡率が大きく下がったとの報告もありますが、それでも6%程度の高い死亡率であり、抗インフルエンザ薬だけで十分とは言い難く、様々な対策を組み合わせて対策を講じるべきであると考えています。

 また、この特措法は新型インフルエンザだけを対象にしたものではなく、新感染症も対象にしています。例えばSARSなどの場合、現時点では、抗インフルエンザ薬のような医薬品はありません。

 東日本大震災や原発事故を経験した現在において、数百年に一度の災害に備えようという状況の中で、感染症の分野においても、病原性と感染性が高い感染症が出現する場合の万一の備えは必要であると考えています。


■問3 なぜ、新型インフルエンザ等特別措置法を制定する必要があったのですか?

 感染症対策は、感染患者等(感染が疑われる人を含む)を特定して入院措置や就業制限、健康監視などを行うことによって感染拡大を防止する感染症法や検疫法などに基づいて実施されていました。しかし、病原性が高い感染症が発生・まん延した場合、国民生活や国民経済の混乱を来さないよう、社会全体にわたる総合的な対策を統一的に講じることが必要だと考えられます。

 例えば、2009年の新型インフルエンザ(A/H1N1)発生時にも、学校休業や施設の閉鎖などを要請しましたが、当時は、要請に法的枠組がなかったことから、誰がどのような権限で要請するのかという法的根拠が必要ではないか、というご意見もありました。また、政府の体制整備の指摘や予防接種の財源措置、緊急的な物資の確保など特別な措置が必要であるとの意見もだされました。

 このため、特措法では、対策本部の設置、基本的対処方針の策定、外出自粛要請、予防接種、物資の確保などの措置を法的に位置づけることになりました。

 通常の事態に特措法を適用するものではないと考えますが、国家の危機管理としては、どんな事態にも対応できるよう制度の準備はしておくべきだと考えています。


■問4 新型インフルエンザ等特別措置法ができたら、どのような対策をとることができるのですか?

 新型インフルエンザ等が発生した場合、政府では新型インフルエンザ等対策本部を設置します。そのうえで、発生した新型インフルエンザや新感染症の病原性が高いものであった場合、「緊急事態宣言」を出すことになります。

 政府が「緊急事態宣言」を発出した場合、「不要不急の外出自粛要請」や「公費による住民へのワクチン接種」、「医療体制の確保」、「医薬品、燃料、食料の確保」などの国民の生命や生活を守るための対策を行うことができます。

 ただし、特措法は、万一の場合の危機管理のための制度ですので、新型インフルエンザ等新感染症が発生した場合でも、病原性が高くない場合には、特別の対策を講じる必要がないこともあり得ますので、その場合には、これらの対策を実施しないことになります。


■問5 特措法において、医療体制の確保はどのように担保されるのでしょうか?

 新型インフルエンザの感染が広がった場合には、原則として一般の医療機関において、院内感染対策を講じながら新型インフルエンザ等の患者の診療を行うことになります。地域全体で医療体制が確保されるよう病診連携を図ることも重要であると考えています。

 それでも医療機関が不足する場合には、都道府県知事が、臨時の医療施設を設置することが容易にできる仕組みを設けています。

 また、通常の協力依頼のみでは医療の確保ができない場合には、都道府県知事から医療関係者に医療の提供を行うよう要請または指示ができる仕組みとし、その一方で、補償制度を設けています。

 さらに、医療機関や医薬品等製造販売業者などの医療関係者を、「指定(地方)公共機関」に指定し、行政と医療機関等の連携を強化することとしました。

 なお、特定接種という制度により、新型インフルエンザ等医療に従事する医療従事者等に、新型インフルエンザワクチンを住民に先行して、公費で接種を開始する制度も整備しました。


■問6 緊特措法において、社会活動が混乱しないように、どのような対策が講じられるのでしょうか?

 行政だけで、対策を講じていくことには限界もあるので、特措法では、発生時に国や地方公共団体と協力して対策を行う「指定(地方)公共機関」という制度を設けています(指定1[地方]公共機関の制度は災害対策基本法などの他の危機管理法制にもあります)。

 指定(地方)公共機関には、行政から新型インフルエンザ等対策の公的責務を負う一方で、行政に対して応援を求めることができます。具体的には、以下のような業種が対象となります。

 指定(地方)公共機関:電気通信事業者、電気事業者、ガス事業者、鉄道事業者、航空事業者、貨物自動車運送事業者(トラック事業者)、内航船舶運航事業者、外航海運業事業者、放送事業者、医療関係機関等

 なお、特定接種という制度によって、指定公共機関だけでなく、それ以外の国民経済・国民生活の安定に寄与する事業者を対象に、新型インフルエンザワクチンを住民に先行して公費で接種を開始する制度も整備しました。

 また、上記の措置以外にも、生活関連物資等の価格の安定に関する措置や、行政上の申請期限の延長等の措置、政府関係金融機関等による融資に関する措置の規定を設けています。


■問7 特措法では、人権保護にどのような配慮をしているのでしょうか。様々な措置は医学公衆衛生の専門家の意見に基づき行われるのでしょうか?

 感染拡大を防止するために、国民の一人ひとりへの外出自粛要請のほか、施設使用制限などの権利の制限が必要になることも考えられます。ただし、特措法では、そうした施設使用制限などの権利制限は最小限度にすべきだとされており、措置を指示する前には相手方の主体的協力を求めるために要請を事前に行うように組み立てております。ただし、施設の使用制限要請や医療関係者への要請など、多くの場合、罰則はありません。

 新型インフルエンザや新感染症に対する対策を講じていく際には、科学的根拠が重要です。特に緊急事態宣言や施設使用制限など、国民の権利を制限するような措置を行う場合は、専門家で構成する基本的対処方針等諮問委員会などの意見を聴きながら対応します。

 また、平時においても行動計画策定に当たって分野の専門家の意見を聴くこととなっています。


■問8 緊急事態宣言が出て、外出自粛が要請された地域では、職場に行くことができなくなるのですか?

 特措法の目的は、国民の生命の保護とともに、国民生活に及ぼす影響を最小にすることであり、都道府県知事は新型インフルエンザ等緊急事態に、住民に対して、期間や区域を定めて、生活の維持に必要な場合を除き、不要不急の外出をしないよう、協力要請をすることができます(特措法第45条第1項)。

 ここで、生活の維持に必要な場合というのは、仕事場への通勤や、食料の買い出し、医療機関への通院などを想定しており、職場に行くことを制限することは想定されていません。ただし、新型インフルエンザ発生時には、政府の行動計画やガイドラインにおいて、事業者の方に対しても、重要業務への重点化などを行い、業務を縮小することをお願いしておりますので、新型インフルエンザ発生時に、職場の管理者から在宅勤務や出勤の自粛を要請される可能性があります。

 基本的な考え方は2009年の新型インフルエンザ(A/H1N1)発生時に厚生労働省から発出された「新型インフルエンザ(A/H1N1)に関する事業者・職場のQ&A」などを参考にしてください。


■問9 2009年の新型インフルエンザ対策の際、水際対策はあまり効果がないといわれていました。特措法では、水際対策を行うことになるのですか?

 2009年の時は、わが国も含む複数の国において検疫の強化、いわゆる水際対策が実施されました。ご指摘のように、潜伏期間や不顕性感染などがあることを考えると、検疫でインフルエンザウイルスの侵入を完全に止めることは不可能です。しかし、国内で患者が発生していない状態で、感染者の到着数が少数と考えられる場合には侵入遅延に有効となる可能性が期待できる対策と考えられます。その目的は、患者の発生を少しでも遅らせて、医療体制などを緊急体制に切り替える時間を稼ぐためです。

 なお、ウイルスの病原性や感染力、海外の状況等をふまえて、水際対策を実施する合理性が認められなくなった場合には、機動的に措置を縮小することが重要であると考えています。

 また、検疫というと、飛行機内に入って患者を見つけることのイメージが強いと思いますが、それだけでなく、入国者に注意喚起のカードを配って入国後の健康状態の確認を行う等、国内機関と連携し総合的に対応することで、水際対策が感染拡大防止に一定の効果があるものと考えています。


■問10 2009年の新型インフルエンザ対策の際、「発熱外来」を設置した兵庫県では、すぐにパンクして混乱したと言われていました。今後も新型インフルエンザが発生したら「発熱外来」を設置することになるのですか?

 発熱外来については、本来、発生早期においては、新型インフルエンザの患者とそれ以外の患者を区分して対応することが合理的であることから設置するようにしたものですが、名称が発熱ということで、2009年の時は新型インフルエンザに罹った可能性のない単に熱がある患者も発熱外来に殺到してしまい混乱したことから、名称を、誤解のないように「帰国者接触者外来」と変え、対象者も明確化しました。

 また、感染が拡大してしまった後では、特定の医療機関だけで患者を診療するのは難しいため、一般の医療機関においても新型インフルエンザ患者の診療を対応することを計画しています。


■問11 新型インフルエンザが発生したら、いつ、ワクチンを接種することができますか?

 新型インフルエンザが流行した場合、政府では、全国民分のワクチンを製造することを計画しています。

 具体的には、発生した新型インフルエンザに感染した方から、製造候補株を分離し、ワクチンを製造することになります。製造候補株の分離からワクチンを供給するまでに、5〜6カ月程度かかることが想定されています。また、その後、平成27年度以降、細胞培養法によるワクチン生産体制が確立すれば、半年以内に全国民分のワクチンを製造することを想定しています。

 新型インフルエンザワクチンを一般の方に接種する際には、重症化するリスク等の要素を考慮して接種順位をつけることになり、その接種順位について基本的な考え方は有識者会議の中間とりまとめの中で整理されていますが、どの層に重症者が多いのかなどは発生したウイルスによって異なるため、接種順位は発生時に政府の基本的対処方針等諮問委員会に諮った上で最終的に決定されます。


■問12 全国民分のワクチンを、新型インフルエンザが発生後に製造するのではなく、事前に作っておくべきではないですか?

 インフルエンザウイルスは、非常に変異が大きいものです。毎年、流行する季節性のインフルエンザの予防接種も、翌年の流行を予測してウイルス株を選定し、ワクチンを製造しています。

 新型インフルエンザは、現在発生していないため、ワクチンを製造するための「新型インフルエンザウイルス」は、存在していません。このため、政府では、1つの策として、鳥インフルエンザ(H5N1)のウイルスを用いて作ったワクチンを製造・備蓄しています。

 ただし、ワクチンの有効期限は3年間しかなく、また今後発生する新型インフルエンザがH5N1という亜型のものでない可能性があること、またH5N1の亜型であっても、効果が期待できない場合もありますので、全国民分のワクチンを製造・備蓄するのは、無駄が多いと考えております。

 このため鳥インフルエンザ(H5N1)のウイルスを用いて作ったワクチンについては、毎年1000万人分を製造・備蓄しています。


■問13 季節性インフルエンザのワクチンは、新型インフルエンザに効果がありますか?

 現在の季節性のインフルエンザワクチンは1本にA型2種類(H1N1/H3N2)とB型1種類の合計3種類の抗原が含まれています。

 新型インフルエンザはどのような型が発生するのか、予測が難しいですが、仮に、鳥インフルエンザ(H5N1)が新型インフルエンザに変異した場合、季節性インフルエンザ(H1N1/H3N2)の亜型と異なるため、効果は期待できません。


*ここで取り上げたQ&Aは、最も基本的なものばかりです。実際の対策面での疑問点、不明点などがありましたら、「パンデミックに挑む」編集までお問い合わせください。ご質問は以下の問い合わせフォームからどうぞ。その際、「特措法について」と明記していただくと助かります。(三和護)

https://bpcgi.nikkeibp.co.jp/form-cgi/formhtml.cgi?form=ask_pass4/index.html


■参考トピックス
内閣官房、新型インフル等特措法施行令案でパブリックコメントを募集
・知っておきたい「新型インフルエンザ等対策特別措置法」のポイント【No.4】
パンデミックワクチン接種までのタイムラグ解消はどこまで
・知っておきたい「新型インフルエンザ等対策特別措置法」のポイント【No.3】
パンデミックワクチン、特定接種の対象業種に「薬局」が含まれる
・知っておきたい「新型インフルエンザ等対策特別措置法」のポイント【No.2】
H5N1プレパンデミックワクチンの「事前接種」は盛り込まれず
・知っておきたい「新型インフルエンザ等対策特別措置法」のポイント【No.1】
感染症法があるのに、なぜ「特措法」が必要だったのか