パンデミック(世界的大流行)を引き起こすような未知の感染症が発生した場合、その流行拡大を可能な限り抑えて、かつ、感染者の重症化を防ぐために、パンデミックワクチンが重要な武器となる。しかし、パンデミックワクチンとて万能ではない。発生から接種までのタイムラグ、2つの「優先順位問題」、小児の接種用量など解決すべき課題は山積している。ここでは「特定接種」に焦点を当てた。

 内閣官房の新型インフルエンザ等対策有識者会議がまとめた「中間とりまとめ」(2月7日)を、パンデミックワクチンというキーワードをもとに読み返してみた。前回も触れたように、パンデミックワクチンは、パンデミックを引き起こすような未知の感染症が発生した後で、その病原体に特異的に対抗するために製造されるものだ。

 まず措置法に出てくるワクチンには、特定接種、臨時の予防接種、さらに新臨時接種の3つがあることが分かる。

 特定接種とは、未知の感染症に真っ先に立ち向かうことになる医療従事者・社会機能の維持に関わる人に限定したワクチン接種のことだ。「中間とりまとめ」で、医療機関や薬局の医療従事者をはじめ、介護・福祉、電気やガス、医薬品製造・卸、中央銀行、さらには郵便など国民生活あるいは国民経済の安定に携わる人々を対象に挙げている(表1)。こうした医療従事者や社会機能の維持に関わる人が感染すれば、最低限の国民生活すら維持できなくなるおそれがある、というのが特定接種制度が必要な理由だ。

表1 「中間とりまとめ」が示した特定接種の対象業種

 特定接種の実施に当たっては、事業者の登録制をとることが決まっている。今後、業種の基準、事業者の基準、さらには従事者の基準とこと細かく設定されていくことになる。実施主体は、医療従事者、社会機能維持者、さらに新型インフルエンザ等の対策に従事する国家公務員は国となっている。新型インフルエンザ等の対策に従事する地方公務員は都道府県、市町村となる。

 特定接種については、一般国民での優先接種順位の考え方と同様、今後とも幅広い議論と納得が必要とされている。

 2009年に発生したH1N1pdm09によるパンデミックの際には、「パンデミックワクチンの先行的接種」として、同様に、医療従事者・社会機能の維持に関わる人を対象に、一般国民に先行してワクチンを接種する方針が打ち出された。「パンデミックに挑む」編集では2009年当時、「パンデミックワクチンの優先順位に関する調査」を行い、読者の意見を求めたことがある。

 それによると、「医療従事者・社会機能の維持に関わる人の先行的接種をどのように受け止めるのか、選択肢から自分の考えに近いものを選んでもらったところ、「当然だと思う」が46.8%で最も多かった。「仕方がない」も29.3%だった。一方で、「業種・職種によっては疑問に思うものも含まれる」が31.7%もあることが分かった(図1)。「納得がいかない」は2.4%、「分からない」は1.2%に留まっていた。

 今後、同様の調査を行い、特定接種に対する理解度がどこまで広がり、かつ深まっているのかを明らかにしたいと思う。

図1 医療従事者・社会機能の維持に関わる人の先行的接種をどのように受け止めるのか(n=82、2009年)

 前回のパンデミックの先行的接種の際には、薬局薬剤師が「対象外」となったことに批判が集中した。当時、在宅療養中の患者に対しては、医師が抗インフルエンザ薬などの処方箋をファクスで発行できるようにした。それにもかかわらず、その処方箋をもって出かけた薬局の薬剤師が先行的接種の対象から外れていたのである。薬局薬剤師に感染が広がった場合、処方箋を持っていっても薬をもらえないという事態が想定されたわけで、先行的接種の目的と実施の不整合は明らかだった。

 「中間とりまとめ」では、この時の教訓が生かされ、特定接種の対象業種に「薬局」も含まれている。

 次回もパンデミックワクチンについて、取り上げたいと思う。


■参考情報
新型インフルワクチン、2つの「優先順位問題」が緊急課題(2009. 5. 2)
新型インフルエンザワクチンの先行的接種、「当然」は47%(2009. 6. 3)
もっとも優先順位が高いのは「医学的ハイリスク者」、58%が支持(2009. 6. 5)
優先順位が「ハイリスク群>成人・若年者>小児>高齢者」の理由は(2009. 6. 22)
小児の優先順位をもっとも高くした理由を聞く(2009. 6. 25)
ワクチン優先接種、薬局薬剤師は「対象外」(2009. 10. 14)