新型インフルエンザ等対策特別措置法が成立し公布されたのが昨年の5月11日。施行は公布から1年以内とされており、新たな政府の行動計画、ガイドラインなどの内容の検討が進んでいる。2月7日に新型インフルエンザ等対策有識者会議が発表した「中間とりまとめ」をもとに、特措法のポイントをピックアップした。同法については、医療現場にさえも未だに様々な誤解が残っており、施行にむけて継続的な議論が求められている。

 感染症法と紹介されることが多い「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」が1999年4月に施行され、従来の伝染病予防法、性病予防法および後天性免疫不全症候群の予防に関する法律が廃止・統合された。結核を含むすべての感染症を対象としており、「新型インフルエンザ等感染症」も「新感染症」も盛り込まれた。

 2009年にパンデミックを引き起こしたインフルエンザウイルスH1N1pdm2009は、この法律の「新型インフルエンザ等感染症」に該当するとして、新感染症法が適用された。

 それなのに、なぜ特措法が必要となったのか――。

 内閣官房新型インフルエンザ等対策室の説明からは、「補償制度の創設」と「知事の権限」が大きな理由として浮かび上がってくる。
 
 「中間とりまとめ」をみると、「医療関係者に対する要請・指示、補償について」(表1)という項目がある。その中には、病原性が非常に高い場合など、都道府県知事による通常の協力依頼のみでは医療の確保ができないと考えられる場合に、都道府県知事は医療を行うよう要請または指示することができるとされている。これに対応する形で、補償制度が盛り込まれた。つまり、「補償制度の創設」は、医療の確保を確かなものにするために必要とされたものだ。

 なお、知事の要請に対して、正当な理由がないのに医療関係者が応じない場合は、指示に切り替えられることになる(法第31条第3項)。ただし指示に対して、医療関係者らが従わなかったりした場合、特に罰則があるわけではない。

 「知事の権限」については、全国知事会が「災害対策基本法に類似した知事の権限を付与するなど、法的な整備を進めるべき」として、強く要望してきたことだ。2009年のパンデミック時には、知事らから、外出自粛や学校、興行場、催物の制限など公衆衛生上の対策などを市民に要請する際に、その根拠となる法律がないことに疑問を呈する声が上がっていた。

 実際に新型インフルエンザ等が発生した場合には、知事らは予防接種の実施、医療の確保はもちろん、住民の生活維持や地域経済の安定のために様々な対応を迫られる。知事らのリーダーシップが対策の実現力を高めるわけだが、そのために「知事の権限」を明確化した法律が必要とされていたわけだ。

 「中間とりまとめ」には、災害救助法がキーワードとして頻出する。内閣官房新型インフルエンザ等対策室によると、東日本大震災の発生を機に、特措法成立へ向けた流れが一気に加速したという。地震や津波と同様、未知の感染症が「災害」として強く意識された結果だった。

 次回からは、ワクチンや抗インフルエンザ薬の位置づけ、公衆衛生上の具体策、発生の段階別にみた対策の実施プログラムどをみていきたい。


◆ 「新型インフルエンザ等対策特別措置法」の疑問点、残された課題などにつきまして、皆様のご意見を募集しています。以下の問い合わせフォームにてご連絡ください。編集部で取りまとめて、内閣官房新型インフルエンザ等対策室に尋ねてみたいと思います。なお、ご連絡の際には、パンデミック・アラートメールにチェックを入れていただき、「特措法について」と明記してください。

問い合わせフォーム

表1 「医療関係者に対する要請・指示、補償について」から

○ 特措法第31条において、新型インフルエンザ等の患者等に対する医療の提供を行うため必要があると認めるときは、医師、看護師その他の政令で定める医療関係者に対し、都道府県知事は医療を行うよう要請または指示(以下、要請・指示)することができるとされている。また、国及び都道府県は、予防接種を行うため必要があると認めるときは、医療関係者に対して必要な協力を要請または指示することができるとされている。
○ 特措法第62条第2項において、国及び都道府県は、要請・指示に応じて患者等に対する医療等を行う医療関係者に対して、政令で定める基準に従い、その実費を弁償しなければならないとされている。
○ 特措法第63条において、都道府県は、要請・指示に応じて、患者等に対する医療の提供を行う医療関係者が、そのため死亡し、負傷し、若しくは疾病にかかり、または障害の状態となったときは、政令で定めるところにより、その者またはその者の遺族若しくは被扶養者がこれらの原因によって受ける損害を補償しなければならないとされている。

(1) 要請・指示を行う状況について
○ 新型インフルエンザ等が発生した場合、都道府県行動計画に定めるところにより、医療の提供が行われることとなるが、病原性が非常に高い場合など、「都道府県知事による通常の協力依頼のみでは医療の確保ができないような場合」に要請・指示を検討する。なお、実際の要請・指示は慎重に行うべきものとするべきである。
○ 「都道府県知事による通常の協力依頼のみでは医療の確保ができないような場合」とは、以下のような場合が想定される。
 ・ 帰国者・接触者外来や臨時の医療施設など、日常診療とは異なる場において医療の提供を行う必要があり、そのための医療関係者を確保できない場合
 ・ 例えば、地域のほとんど全ての医療機関が診療を休止するなど当該地域における医療体制の確保が困難となり、当該地域に所在する医療機関に対し医療の提供を要請する場合

○ 医療関係者への要請・指示の方法については、医療関係者に対し個別に要請・指示を行い日常診療とは異なる場で医療の提供を行う方法、または、医療機関の管理者に要請・指示を行い、日常診療とは異なる場若しくは当該医療機関において診療体制の構築を依頼する方法等が考えられる。

(2) 要請・指示を受けて医療等を提供する体制について
○ 特措法第31条の医療関係者は、災害救助法など類似の法令を参考として定める方法が考えられる。
○ 新型インフルエンザ等の発生時においても、質が高く、安心で安全な医療等を円滑に提供するためには、新型インフルエンザ等の患者等に対して医療を行う医療関係者の他、事務職員を含め多くの職種の協力が不可欠であり、各医療スタッフ等がチームとして医療提供を行うことが求められる。したがって、特措法第 31条に基づき要請・指示を受けて医療等を提供する体制は、医師、看護師等の有資格者のみならず、患者等と直接接する事務職員等を含めたものとすることも検討すべきである。

(3) 補償基準、申請手続等の政令要件について
○ 補償基準、申請手続等については、新型インフルエンザ等によるものと、災害等によるものとは大きな違いがないものと考えられるため、災害救助法等と同様の基準、手続きとすることが適当と考えられる。

■ 参考情報 
新型インフルエンザ等対策有識者会議 中間とりまとめ


■訂正
・2月15日に以下の訂正を行いました。
 2段落目にあった「2009年4月に施行され」を「1999年4月に施行され」に、「結核を除く」を「結核を含む」にそれぞれ訂正しました。