国立感染症研究所インフルエンザウイルス研究センターの高下恵美氏

 国立感染症研究所と全国地方衛生研究所による日本国内の最近4シーズンにおける抗インフルエンザ薬耐性株サーベイランスの結果が、同研究所インフルエンザウイルス研究センターの高下恵美氏らにより、第60回日本ウイルス学会学術集会(11月13〜15日、開催地:大阪市)で報告された。A/H1N1pdm09では、H275Y耐性変異株が2008/09年〜2010/11年シーズンにわずかながら増加傾向を示し、また抗インフルエンザ薬未投与例からの検出率が2010/11年シーズンに上昇した。H3N2では、2010/11年および2011/12年シーズンに、R292K耐性変異を持ち、タミフル、ラピアクタに耐性を示す株が各1株検出された。

 わが国は、抗インフルエンザ薬として、4種のノイラミナダーゼ(NA)阻害薬が使用でき、使用量も世界最大とされる。このため、抗インフルエンザ薬耐性株の検出状況を迅速に把握し、その情報を国内はもとより、海外に向けても提供していく役割が求められる。

 国立感染症研究所(以下、感染研)では2009/10年シーズンから、全国の地方衛生研究所と共同で、薬剤耐性サーベイランスを開始した。サーベイランスではまず、全国の病原体定点医療機関約500施設で採取された臨床検体について、地方衛生研究所がウイルス解析および遺伝子解析を実施。そこで検出されたすべてのH275Y変異株からランダムに抽出され、感染症サーベイランスシステム(NESID)に登録された約10%の株について、感染研が薬剤耐性試験と詳細な遺伝子解析を行う。

 耐性ウイルスの判定は、WHOの専門家ワーキンググループが最近合意した基準に従った。この基準では、H275Y耐性変異を持つN1ウイルスはタミフル耐性ウイルスとして判定し、H275Y耐性変異株以外についてはIC50値を感受性基準株と比較して判定する。A型ウイルスの場合、感受性基準株のIC50値と比較して、10倍までを感受性株、10〜100倍を感受性低下株、100倍以上を高度感受性低下株とする。B型の場合は、それぞれ5倍まで、5〜50倍、50倍以上としている。日本国内のサーベイランスでは、WHO基準の高度感受性低下株を耐性株と定義することになった。

 高下氏らは今回、2008/09年〜2011/12年の4シーズンにおける耐性株サーベイランスの結果を報告した。

 まず、H1N1pdm09では、タミフルおよびラピアクタに耐性を示す株が、2008/09年に0.5%、2009/10年1.1%、2010/11年に2.0%検出され、わずかながら増加傾向が認められた。すべての耐性ウイルスはNAのH275Y耐性変異を有していた。2011/12年シーズンはH1N1pdm09の流行がほとんど見られず、解析株は9株とわずかで、耐性株は認められなかった。

 H3N2では、タミフルおよびラピアクタに耐性を示す株が、2010/11年、2011/12年に各1株(0.7%、0.3%)認められ、ともにNAのR292K耐性変異を有していた。

 B型では、タミフル、ラピアクタに耐性を示す株は認められなかった。なお、H1N1pdm09、H3N2、B型のいずれにおいても、リレンザ、イナビルに耐性を示す株はまったく検出されなかった。

 さらに、H1N1pdm09耐性変異株が検出された患者の薬剤投与状況を調べると、未投与の患者の割合が、2008/09年、2009/10年シーズンは約20%だったが、2010/11年は44%に上昇していた。未投与例からの検出の増加傾向は海外でも報告されている。高下氏は「これまでに検出されたH1N1pdm09耐性株の大半は散発例で、地域的な広がりは生じていないが、ヒトからヒトへの感染伝播について今後特に注意が必要」と指摘した。