東京大学医科学研究所ウイルス感染分野の坂井(田川)優子氏

 2010/11年シーズンの小児インフルエンザ患者の臨床検体を用いた検討で、新規抗インフルエンザ薬ラピアクタイナビルの抗ウイルス効果はタミフルと同等であり、2009年にパンデミックを起こしたA/H1N1pdm09に対して特に良好であったことが、東京大学医科学研究所ウイルス感染分野の坂井(田川)優子氏らにより、第60回日本ウイルス学会学術集会(11月13〜15日、開催地:大阪市)で報告された。同氏らはさらに、H1N1pdm09に感染し、タミフルまたはラピアクタによる治療を受けた患者において、薬剤耐性変異が生じていたことも明らかにした。

 坂井(田川)氏らは、2010/11年シーズンに、関東地方の4病院でノイラミニダーゼ(NA)阻害薬による治療を受けた小児インフルエンザ患者141例より得られた臨床検体298検体を用い、各NA阻害薬の抗ウイルス効果を調べた。また、薬剤耐性変異ウイルスの出現についても検討した。

 141例の治療薬剤の内訳は、ラピアクタが最も多く57例(40%、平均年齢3.9歳)、以下、タミフル46例(33%、同4.3歳)、イナビル34例(24%、同8.7歳)、リレンザ1例(1%)という順。3例(2%、同8カ月)は非投与だった。点滴薬であるラピアクタは乳幼児を中心に、吸入薬であるイナビルは比較的年長の小児に使用されたことが推測された。

 ウイルスの型・亜型は、H3N2が57例(40%)、H1N1pdm09が48例(34%)、B型20例(14%)、陰性16例(11%)で、Aソ連型はなかった。

 まず、使用例が1例だけだったリレンザを除く3薬について、検体より分離したウイルスの力価の変化を検討したところ、H1N1pdm09では3薬とも投与後明らかな低下が見られ、4日目以降にはほとんど残存していなかった。これに対して、H3N2では3薬とも、ウイルス力価の低下は見られたものの、4日目以降の残存が比較的多かった。B型はイナビル投与例のみで検討したが、H3N2と同様に、残存が比較的多く認められた。この結果から「ラピアクタとイナビルの抗ウイルス効果は、タミフルと同等で、特にH1N1pdm09に対して高いと考えられた」という。

 一方、薬剤耐性変異ウイルスについては、検体よりRNAを抽出し、NA遺伝子のダイレクトシークエンス解析により耐性変異の混在を探索するとともに、クローンのシークエンス解析により耐性変異率を求めた。

 ダイレクトシークエンス解析を行った結果、H3N2においては既知の変異はまったく存在しなかったが、H1N1pdm09では275Y変異の混在がタミフルを投与した16例中5例(31%)、ラピアクタを投与した23例中4例(17%)で認められた。

 さらに、クローンのシークエンス解析を行うと、タミフルを投与した16例中5例(31%)でH1N1pdm09のH275Y変異が認められた。投与前後の検体が得られた3例では、H275Y変異率は投与前の0%から、3〜5日目に7%、20%、33%へと上昇した。5日目と8日目の検体が得られた1例でも、17%から40%への上昇が認められた。ほか1例は、4日目の検体のみだったが、変異率は100%であった。ラピアクタ投与例では、23例中3例(13%)でH1N1pdm09のH275Y変異が認められ、変異率は投与前には全例0%だったが、4〜6日目に8%、9%、27%へと上昇した。

 タミフル投与例、ラピアクタ投与例で認められた変異株のIC50値を検討したところ、いずれの変異株でもタミフル、ラピアクタに対するIC50値が著明に上がっていた。しかし、リレンザ、イナビルに対するIC50値は低いままだった。

 坂井(田川)氏は「タミフルあるいはラピアクタによる治療を受けたH1N1pdm09に感染した患者では、薬剤耐性変異が生じていることが分かった」と述べ、今後監視を強化する必要性を示唆した。