北海道大学大学院獣医学研究科微生物学教室の七戸新太郎氏

 鳥由来のインフルエンザウイルスブタで感染を繰り返すうちに、ヒトにパンデミックを起こし得るウイルスが優勢になってくることが分かった。カモから分離されたA/duck/Hokkaido/5/77(H3N2)インフルエンザウイルスをブタに経鼻接種し、継代したところ、ヒト型レセプター特異性のヘマグルチニン(HA)を持つ子孫ウイルスが優勢になったという実験結果に基づく。北海道大学大学院獣医学研究科微生物学教室の七戸新太郎氏、人獣共通感染症リサーチセンターの喜田宏氏らが、第60回日本ウイルス学会学術集会(11月13〜15日、開催地:大阪市)で報告した。

 インフルエンザウイルスが、例えば鳥からヒトへ、種を超えて伝播するようになるためには、レセプターの特異性の変化が必要と考えられている。

 インフルエンザウイルスのレセプターは、シアル酸(SA)を末端に持つ糖鎖として、細胞表面に存在する。鳥由来のインフルエンザウイルスは、SAがガラクトース(Gal)にα2,3結合した糖鎖(SAα2,3Gal)を特異的に認識する。これに対して、ヒトのインフルエンザウイルスはSAがGalにα2,6結合した糖鎖(SAα2,6Gal)を特異的に認識する。

 こうしたレセプター特異性を決定しているのは、HAサブユニット上の226番目、228番目のアミノ酸。226〜228番目の配列が、H3鳥インフルエンザウイルスではグルタミン−セリン−グリシン(Gln-Ser-Gly)だが、ブタやヒト由来のH3インフルエンザウイルスではロイシン−セリン−セリン(Leu-Ser-Ser)となっている。

 喜田氏らはこれまでに、ブタから、SAα2,6Galレセプター特異性のウイルスだけでなく、SAα2,3Galレセプター特異性のウイルスも分離。ブタが両ウイルスに感染し得ることを報告した。さらに、H1-13亜型のウイルスがブタに感染、増殖し、ブタにおいて遺伝子再集合(ウイルス間の遺伝子交換)を起こすことも明らかにしており、ブタが新型ウイルスの出現に重要な役割を果たしている可能性を示唆した。ブタの呼吸器上皮細胞では、SAα2,3Galレセプター、SAα2,6Galレセプターの両者が発現していることも報告されている。

 一方、A/HongKong/68(H3N2)パンデミックウイルスは、鳥のウイルス(H3NX)とヒトのウイルス(H2N2)がブタで遺伝子再集合を起こし、出現したと考えられている。また、このパンデミックウイルスは、インフルエンザウイルスの自然宿主であるカモに由来するHA遺伝子を持つこと、SAα2,6Galレセプター特異性を有することが明らかにされている。

 そこで、七戸氏らは今回、ブタにおいてSAα2,6Galレセプター特異性のウイルスが選択されるかどうかを検討した。カモから分離されたH3N2ウイルスであるA/duck/Hokkaido/5/77をブタに経鼻接種し、7日間毎日スワブを回収。最後に回収されたウイルスをMDCK(Madin-DarbyCanineKidney)で増殖後、次のブタに接種するという作業を3回繰り返した。

 継代を繰り返すに伴い、ウイルスの増殖性が高くなった。継代したウイルスで、HAの226〜228番目のアミノ酸配列を検討すると、継代前ではすべてGln-Ser-Gly配列だったが、2代目でLeu-Ser-Ser配列が一部で見られるようになり、3代目にはすべてがLeu-Ser-Ser配列の株に置き換わっていた。

 また、継代したウイルスのレセプター特異性に関与するHA遺伝子の一塩基多型を調べた。すると、継代前では、226番目でGln、228番目でGlyをコードする塩基のみのウイルスが検出され、変異は認められなかった。しかし、継代を重ねるごとに、226番目でLeu、228番目でSerをコードする塩基のウイルスが増え、3代目ではほぼ100%を占めた。さらに、継代したウイルスで糖鎖結合試験を行うと、α2,6結合した糖鎖に特異的に結合することが認められた。

 以上より、七戸氏は「A/duck/Hokkaido/5/77(H3N2)インフルエンザウイルスがブタに感染を繰り返すと、ヒト型レセプター特異性のHAを持つ子孫ウイルスが優勢になることが分かった」と結論。「ブタインフルエンザのサーベイランスは、パンデミックウイルスの出現に備える要になる」と指摘した。