緊急討論の座長を務めた渡辺氏(左)と菅谷氏

 日本感染症学会は10月12日、第61回東日本地方会学術集会において緊急討論を開催した。テーマは、今年5月に公布となった「新型インフルエンザ等対策特別措置法」の問題点。参加者からは、鳥インフルエンザH5N1ウイルスのパンデミック化を過大評価している、H5N1亜型については現時点で世界中の感染症の専門家らはパンデミックの最有力候補とは見ていない、新感染症とインフルエンザへの対応が整理されていない、プレパンデミックワクチン接種が既成事実化している、などの手厳しい指摘が相次いだ。

 討論会ではまず、渡辺氏が論点整理を行った。それらは11項目に集約された(表1)。

 1.この法律は“新型”インフルエンザが対象か?
 2.そもそも“新型”インフルエンザとは何か? H5N1亜型なのか?
 3.H5N1亜型が本当にパンデミックを起こすのか?
 4.“新型”であれ、死亡が64万人などということは起こり得るのか?
 5.季節性インフルエンザ以下なら発動しないとあるが、発生後直ちに見極められるのか? また、その基準はどのようなものなのか?
 6.検疫(同法第29、30条)は必要なのか? 有効なのか?
 7.臨時の医療施設の開設(同法48、49条)とは「発熱外来」のことか?
 8.外出禁止や集会禁止(同45条)で果たして流行を抑えられるのか?
 9.インフルエンザで、電気やガス、水道が使えなくなるのか(同52条)?
 10.ワクチン対策(同46条)で、プレパンデミックワクチンは有効か? 安全か?
 11.流行の第一波では、抗インフルエンザ薬の早期投与が根本的対策ではないのか?

表1 渡辺氏が示した論点整理

 この論点整理のもと、6人の演者が講演を展開。基調講演に立った喜田宏氏(北海道大学大学院獣医学研究科・同人獣共通感染症リサーチセンター)は、「ウイルス学の立場から見た“新型”インフルエンザ」と題して講演し、まずは正しい理解のもとに対策を練って欲しいと求めた。

 続いて、日本感染症学会インフルエンザ委員会からは3人が登壇。座長の菅谷憲夫氏(警友会横浜けいゆう病院小児科)ともども、同法が「鳥インフルエンザH5N1ウイルスのパンデミック化を過大評価しているのではないか」、「H5N1亜型については現時点で世界中の感染症の専門家らはパンデミックの最有力候補とは見ていない」、「プレパンデミックワクチン接種が既成事実化しているのは倫理的にも問題」などの意見が続いた。

 フロアからは、たとえば「新感染症とインフルエンザへの対応がごちゃごちゃになっていて、きちっと整理されていないことが最も大きな問題」(川名明彦氏・防衛医科大学校)との指摘もなされ、多くの参加者の賛同を得た。

 討論会の終了後、同学会理事長の岩本愛吉氏(東京大学医科学研究所先端医療研究センター・感染症分野)は、「まずは感染症学会として議論を尽くし、意見を出し合うことが大事」と、今回の討論会の意図を語った。また、緊急討論の座長を務めた渡辺彰氏(東北大学加齢医学研究所抗感染症薬開発研究部門)は、「学会としての見解をまとめる方向で議論を集約したい」との見解を示した。同じく座長を務めた菅谷氏は、討論会を通して「感染症の専門家から見て、看過できない問題点が明らかになった」とし、来春の特措法施行へ向け、学会として専門家の視点から積極的に発言すべきと訴えた。

 総じて、感染症専門家の目から見てこれだけ多くの問題のある法律が、なぜ成立したのかと疑問視する声がほとんどだった。フロアからは「専門学会としてきちっとした対応をすべき」との意見も出されたが、渡辺氏と菅谷氏の両座長は今後、学会としての意見表明を検討したいとまとめ、討論会を締めくくった。