関西福祉大学 勝田吉彰氏

 今夏、米国で豚H3N2vのヒト感染が急速に拡大している。農業祭会場で豚舎の一般公開などで豚と接触したケースを中心に報告されてきたのだが、8月10日のCDC発表で突如としてそれまでの16例から154例へと報告数が1ケタ増えてしまった(1,2)。2003年の北京におけるSARS流行中に大使館医務官として現地日本人社会への対処にあたっていた筆者にとって、当時、北京市発表の(SARS)患者数がひと夜にして1ケタ増えてしまったあの悪夢がフラッシュバックするような事態だ(両者間で事情は異なるのだが)。

 執筆時点で、この騒動は米国内限定のようであるが、実は、わが国に輸入される豚肉の原産国はほかならぬ米国がトップを占めているのだ(3)。農水省HPを見ても(執筆時点でといってもお盆休みにこの稿を書いているのだから、当然、霞が関はお盆休み体制だ)豚輸入をストップしてくれそうなことは書いていないから、いずれこの騒動は日本にも入ってこよう。

 8月10日に米国CDCはH3N2vの医療者向けガイダンスを発表した。今回の騒動が日本に入ってきて、さらにいくばくかの時間を経た後には厚労省や感染研のHPには何らかのガイダンスが載るものと思われるが、それまでは当面、米国CDC版を参照しながらことにあたることとなろう。

 今回、筆者のお盆休みを少々、翻訳に割いてみた。“その時”,これが多少なりとも皆さまのお役に立てば幸いだ。

 要点はこんなところだろうか。

1. インフルエンザ様症状のある受診者に豚接触歴が確認されたらH3N2v感染の可能性例として取り扱う。
2. 迅速検査で陰性が出ても否定できず、陽性が出ても特定できない(検体を州の公衆衛生当局の検査機関に送ることを求めている)。
3. 臨床上の取扱いは季節性インフルエンザと大きな変わりはなく、一般的な感染管理となる。
4. 抗ウイルス薬はタミフルとリレンザには感受性、アマンタジンとリマンタジンには耐性。
5. ハイリスク群の取扱いは注意されたし。

 さらに詳しくは以下をお読みいただきたい。

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H3N2vウイルス ヒト感染に関する、臨床家向け当座の情報

                   (米国CDC 2012.8.10)

バックグラウンド

 豚の間に拡がっているA型インフルエンザは変異型とされる。インフルエンザA/H3N2vは、A/H1N1pdm2009のM蛋白を共有していることが2009年より判明した。特に、H3N2vによる大量感染は2012年7月から認められている(ウイルスは2011年から米国内の豚の間で感染しており、多くの州で検出されており、広く拡大しているのは明らかである)。

 ヒト感染の大部分は小児であり、豚との接触が確認されている。現時点では、2012年に発生したほとんどは農業祭に関連しており、豚の展示や豚舎内を歩き回ったことによる。職業上の接触例も一例報告されている。

 2011年に限定的なヒト-ヒト感染が報告されているが、継続していない。これらは家庭内で子どものケアによるものである。2011年から、少数の入院例があり、これには元々健常例も基礎疾患を有する例も含まれる。現時点では死亡例はなく、いずれも完全に回復している。CDCは引き続き注意深くモニタリングを行い、追加情報があり次第更新する予定である。

臨床症状とハイリスクグループ

 H3N2v感染による臨床症状は概して、合併症のない季節性インフルエンザ感染による症状や徴候と類似している。発熱、咳、咽頭痛、鼻閉、筋肉痛、頭痛など。嘔吐と下痢が一部の小児例で報告されている。発熱を伴わない、さらに軽症なケースも考えられる。

 症状の持続期間は、合併症のない季節性インフルエンザと同様でおおよそ3〜5日間である。季節性インフルエンザと同様と推測されるものの、H3N2vの複製にかかる時間、感染性を有する時間はまだ解明されていない。

 基礎疾患の悪化(たとえば気管支喘息)が発生している。5歳未満、妊婦、65歳以上、免疫不全、慢性肺・心・代謝性・血液・神経疾患、神経発達上問題、腎・肝・その他の併存や肥満といった、季節性インフルエンザ合併症のハイリスク群は、H3N2vにおいても合併症ハイリスク群となる。

 血清学的データは限られるが、10歳未満ではH3N2vに対する免疫を欠き、H3N2vに最も感染しやすい。思春期から青年期にかけては交叉免疫を有するが、感染することもある。中年以上〜高齢者は免疫は弱く感染しやすい。

 季節性インフルエンザワクチンは効果ない。

臨床診断

 H3N2vは季節性インフルエンザA型B型やその他のインフルエンザ様症状(発熱と咳や咽頭痛)を来たす他のウイルス感染症と、臨床症状で見分けることは困難である。したがって、現時点でH3N2v感染を疑うのは、発症の前週に豚に接触したという疫学的関連情報に拠る。

 すなわち、
●豚との直接接触(養豚、給餌作業、豚排泄物の清掃)や間接接触(養豚場の訪問、農業祭で豚舎を歩き回るなど)。特に豚が病気と判明している場合。
●最近豚と接触し症状を持つ人との濃厚接触(2メートル以内)。

 インフル様症状があり、最近の豚との接触歴のある場合はH3N2v感染の可能性例とみなされる。

報告

 医師は、H3N2vの可能性例を見つけたらただちに地元保健当局に届け出なければならない。

●最近の豚接触歴、あるいは豚接触歴のある人との接触歴のあるH3N2v可能性例を診察したら咽頭スワブか吸引標本を(あるいは鼻腔スワブと咽頭スワブの組み合せ)を採取し、ウイルス輸送容器に入れて保健当局にコンタクトし検査機関に運ぶ手続きをとらねばならない。

ラボ診断と結果の解釈――病院や検査機関で

 抗原検出、迅速検査(RIDTs)と蛍光抗体法(DFA)で、H3N2vウイルス検出が可能であろう。RIDTの中には検出できない(偽陰性)場合もあるかもしれないが。

 偽陰性は他のインフルエンザウイルスでも起こりうる。RIDTsで陽性となったH3N2v例もあれば陰性となった例もある。さらに、DFAもRIDTsもH3N2v感染を特定することはできず、陽性の場合もH3N2vと他の季節性インフルエンザと鑑別することにはならない。

●RIDTで陰性になってもH3N2v感染や他のいかなるインフルエンザも除外することはできない。
●RIDTで陽性となった場合もH3N2v感染と特定することはできない。

 これらの検査はインフルエンザA型間のサブタイプを区別するものではない。したがって、H3N2v感染が疑われたら、検体を公衆衛生当局に送りCDC FLU rRT-PCR Dx Panel assayを用いたrRT-PCR法で検査されるべきである。

 RT-PCRを含む、市販されているアッセイ法でインフルエンザを検出できるものがある。それらのほとんどではインフルエンザA型を検出することができる。しかしながら、市販の検査キットでは季節性インフルエンザとH3N2vとを鑑別することはできない。H3N2を検出する感受性も特異度も分かっていない。検査機関によっては、市販品ではないキット(“home brews”)を使っていることもあるが、こちらもやはり感受性も特異度も分かっていない。

 したがって、
●インフルエンザAが陽性、あるいはインフルエンザAとH3が陽性、あるいはサブタイプ分けのできないインフルエンザA陽性が疫学的に豚接触のある患者で検出された場合は、H3N2v可能性例として取り扱うべきである。H3N2v可能性例から採取された検体は保健当局の検査機関に送られるべきである。
●最近の豚接触歴のある患者にインフルエンザを疑った場合、鼻咽頭スワブか吸引標本(あるいは鼻スワブと咽頭スワブの組み合せ)を採取して輸送用容器に入れ、地元保健当局にコンタクトし、輸送と時期を逸しない診断を要請すべきである。
●RT-PCRで陰性の結果が得られても、H3N2v可能性を排除するものではない。なぜならば市販品も“home brew”も含めて感受性も特異度も現時点では不明だからだ。
●10月のインフルエンザシーズンに先がけて、インフル様症状の患者にはRT-PCRの実施を考慮すべきである。
●州の検査機関におけるRT−PCRは、豚接触歴のあるインフル様症状患者および、ヒト感染患者と接触歴のあるケースでは常に考慮されるべきである。

検査機関での診断および検査結果解釈――州の公衆衛生検査機関

 州の公衆衛生当局検査機関と、その他の検査機関は、標本に対してCDC FLU real-time reverse transcription polymerase chain reaction (rRT-PCR) Dx Panel influenza assay [CDC FLU rRT-PCR Dx Panel assay]を実施することができる。

 Influenza A+、H1−、H3+、pandemic A+、pandemic H1−の結果が得られたら、H3N2v陽性と推定される。

●CDC FLU rRT-PCR Dx Panel assayを実施して陽性となったケースではH3N2v確定例と考えられる。確定例のサンプルはCDCに送られるべきである。
●州の公衆衛生当局は、H3N2v確定例を含む新たなインフルエンザA感染をCDCに報告することを求められる。

臨床上の取扱い

 H3N2vの臨床上の取扱いはインフルエンザA型B型のそれと同様である。合併症のないH3N2v感染患者は外来ベースで取扱い可能で、臨床症状の推移と合併症が現れてこないか綿密にモニタリングしてゆく。

 H3N2vの疑い〜確定例において、初期段階からの抗ウイルス剤投与は、全ての入院例、重症あるいは進行例、そしてハイリスク患者に対して適応となる。軽症〜中等症の合併症、たとえば基礎疾患のある程度の(重症ではない)悪化などは外来で取り扱ってもよい。しかし、重症合併症は重症化している場合は入院が考慮される。入院したら、未治療例では可及的速やかに抗ウイルス剤投与が行われるべきである。二次的細菌感染症が認められたら、速やかに経験的に抗生剤投与を行うべきである。潜在的合併症に対するケア(低酸素に対する酸素投与、呼吸不全に対する呼吸器使用、ショックに対する昇圧剤、腎不全に対する透析など)も含まれる。

抗ウイルス剤投与

 現時点ではタミフルとリレンザに感受性を有する。H3N2vは、A/H1N1pdm09のM蛋白を含み、アマンタジンとリマンタジンには耐性がある。したがって、これらの薬剤は投与されるべきではない。

 H3N2v可能性例(インフル様症状があり、かつ、豚接触歴のある者)であり、かつ、入院例・重症化または症状進行・ハイリスクグループについては、検査結果を待たず経験的にタミフル経口投与かリレンザ吸入を可及的速やかに行うべきである。抗ウイルス剤は早期投与(症状発生から48時間以内)で最も効果をあらわすが、時間が経過した中等症〜重症例でも有効である。H3N2vに対する抗ウイルス剤投与の推奨は季節性インフルエンザに対するそれに基づく。

●H3N2vを含むインフルエンザ罹患が疑われるケースで、入院例や重症合併症を有する例や症状進行例については検査結果を待たず可及的速やかにタミフル経口投与かリレンザ吸入が勧められる。
●ハイリスク群と考えられる外来患者がH3N2vを含むインフルエンザ罹患が疑われる場合には、検査結果を待たず可及的速やかにタミフル経口投与かリレンザ吸入が勧められる。
●ハイリスク群ではなく基礎疾患も有しない患者に、H3N2vを含むインフルエンザ罹患が疑われる場合には検査結果を待たず可及的速やかにタミフル経口投与かリレンザ吸入が奨励される。これらのケースでも発症48時間以内に投与開始される場合には抗ウイルス薬投与の意義が認められる。

予防投与

 ハイリスク群、合併症を有する群ともに抗ウイルス薬の予防投与(暴露前後とも)は勧められない。ハイリスク群の者に症状が出た場合には可及的速やかに診察を受け、H3N2vを含むインフルエンザ罹患が考えられる場合には、抗ウイルス薬投与を早期に開始するべきである。

ステロイド

 H3N2vを含むインフルエンザの可能性例や確定例では、ステロイド全身投与がルーチンで行われるべきではない。ただし他の合併疾患(COPD、気管支喘息)のためにステロイド慢性投与を受けている場合をのぞく。

市販薬(OTC薬)

 アスピリンやアスピリンを含む製品ではライ症候群のリスクがあり、H3N2v疑い例や可能性例を含むインフル様症状のある小児に服用させるべきではないことを両親に注意喚起すべきである。

感染管理――患者ケア

 限定的かつ継続しないヒト-ヒト感染が報告されている。また、データは極めて限られているが、H3N2vにおいても季節性インフルエンザ同様にヒト-ヒト感染しうると考えられている。したがって、感染管理は季節性インフルエンザ同様のものとなる。すなわち、標準的、飛沫対策(サージカルマスク)、接触時の注意など。アエロゾルを発生させる行程ではN95マスクか同等のものを使うべきである。

感染管理―サンプル採取

 患者からサンプル採取する際には、標準的、接触、飛沫に対し注意して取り扱うべきである。

家庭内看護

 H3N2v疑い例や確定例で入院を要するほどでないケースは家庭内で他の家族からできる限り隔離されるべきである。合併症のリスク高い家族は患者から半径2メートル(約6フィート)以上離れるべきである。

ワクチン

 現時点ではH3N2v用ワクチンは無い。季節性インフルエンザワクチンは、H3N2vウイルスに対し効果がない。季節性インフルエンザ用ワクチン株は2012−2013シーズン秋冬に流行が予測されるものである。したがって、季節性インフルエンザワクチンは6カ月以上のあらゆる人々に対して推奨される。

予防

 小児を含む、インフルエンザ合併症のハイリスク群の人々には、抗ウイルス薬の予防投与は推奨されない。豚および、豚接触後に病気となった人との接触を避けるべきである。もし豚との接触が避けられないならば、ハイリスク者は適切な防護具を着用すべきである。

■参考文献
(1)豚A/H3N2ウイルスのヒト感染例、米で8州に拡大
(2)豚A/H3N2ウイルスのヒト感染例、米国の9州で166例に増加
(3)わが国に輸入される豚肉の原産国(農水省HP)
(4)Interim Information for Clinicians about Human Infections with H3N2v Virus

 過去のパンデミック時とH1N1pdm2009の大きな違いの1つは、インターネットによる情報提供が力を発揮したことでしょう。2003年のSARSの流行時に、北京で日本大使館医務官だった勝田吉彰氏(関西福祉大学)は、「ちぎっては投げ方式でこまめに情報提供をすることで、現地の日本人社会の不安を和らげた」との体験をお持ちです。新型インフルエンザが騒がれるようになってからは、このときの経験を元にブログ「新型インフルエンザ・ウォッチング日記」を立ち上げ、日々情報を発信し続けています。最近はツイッター(http://twitter.com/tabibito12)でも情報発信に取り組むなどマルチな情報発信を継続されています。勝田氏に「今、忘れてはならないこと」を綴っていただきます(三和護=日経メディカル別冊編集編集委員)。

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