廣津医院(川崎市)院長の廣津伸夫氏

 インフルエンザにおける出席停止期間を見直した「学校保健安全法施行規則の一部を改正する省令」が、4月1日からの施行となった。しかし、長年にわたり学校医として、またインフルエンザ診療の専門家として学校保健に携わってきた廣津医院(川崎市)院長の廣津伸夫氏は、これまでの議論とその結論に違和感を覚えるという。「解熱した後2日経過かつ治療開始後4日を経過するまで」が妥当と話す廣津氏。その理由をうかがった。

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―― 結局、インフルエンザの出席停止期間の基準は、これまの「解熱した後2日を経過するまで」に、新たに「発症したあと5日を経過」が加わりました。さらに、「保育所における感染症対策ガイドライン」を倣うかたちで、幼稚園に通う幼児の場合は「解熱した後3日を経過するまで」と改訂されました(表1)。

表1 インフルエンザにおける出席停止期間

・改訂前:解熱した後2日を経過するまで
・改訂後:発症したあと5日を経過し、かつ、解熱した後2日を経過するまで(ただし、保育所や幼稚園に通う幼児は「解熱した後3日を経過するまで」)

廣津 「インフルエンザの出席停止期間の見直し」に関しては、2002/03年シーズンから2010/11年までに行った「インフルエンザウイルスの検出期間の検討」の結果をもとに意見をパブリックコメントに提出しました。

―― 詳しくご説明ください。

廣津 私は、家族内感染の防御のためにウイルスがいつまで検出されるかの検討を続けています。0歳から6歳の乳幼児と7歳から15歳の小中学生(以下、生徒)では、明らかにウイルスの検出期間は異なりますので、年齢により出席停止期間を考慮することに関しては同意しています。両者におけるウイルス検出期間の違いは、年齢の違いからくる治療効果の差によるものであって、乳幼児は一般に治療効果は低く、その結果ウイルス検出は治療後でも、より長引きます。

 治療の効果にしたがって発症後のウイルス検出が影響を受けますので、当然、乳幼児はより長くウイルスを排出します。ましてや、無治療の患者ではウイルスがさらに長く排出し続けます。

 一方、解熱後の検出は、熱の経緯がウイルスの消長を反映することから、年齢の差、治療の差には大きく影響されないのです。したがいまして、「出席停止期間を発症後の日数により規定すること」および「解熱後の出席停止期間を年齢により規定すること」に対しては、異った意見を持っています。

―― なぜ「発症後の日数」ではだめなんでしょうか。

廣津 いつ発症したのか問われて、しっかりと答えられる保護者は、どれだけいるでしょうか。「昨日の夜中、いや昨日の昼ごろから、ひょっとしたら一昨日の夜かも」などと、発症日の起点は不確かになりがちです。あやふやになりがちな発症日を起点にするのは、やはり危険だと思います。

―― 解熱後の出席停止期間の基準に「年齢」を持ち込むこともだめなんでしょうか。

廣津 まず、私が行った研究の結果を見ていただきたいと思います。

 H3N2、H1N1(2008/09年のタミフル耐性を含むが、H1N1pdm2009は含まない)のA型500例、およびB型370例のうち、0歳から6歳の乳幼児と7歳から15歳の小中学生、および無治療者(A型26名、B型14例)を対象に、ウイルス検出の推移を調べました。なお、以下は、発症した後5日を経過した後の登校は、発症6日後、すなわち第7病日と理解して考察しました。

 まず、治療後いつまでウイルスを検出するかですが、結果は図1を見てください。

―― 縦軸は、ウイルスが検出された患者さんの割合ですね。

廣津 そうです。ご覧のように、治療開始5日後(治療を開始した後4日を経過した後)にウイルスが検出される割合(以下、残存率)は、A型の場合、乳幼児19.8%、生徒4.9%でした。図には示しませんでしたが、B型ではそれぞれ19.6%、2.1%となります。また、治療開始6日後の残存率はA型の場合、乳幼児6.8%、生徒1.0%、B型ではそれぞれ、2.3%、0.7%となります。この結果から、A型およびB型ともに治療開始5日後における生徒でのウイルス残存率は、治療開始6日後における乳幼児のウイルス残存率と近似していることがうかがえます。

―― 生徒では治療開始後5日(治療を開始した後4日を経過した後)、乳幼児では6日(治療を開始した後5日を経過した後)が、それぞれ1つの目安となりうるわけですね。

廣津 次は、「発症後いつまでウイルスを検出するか」です。

―― 図2がその結果ですか。

廣津 発症6日後のウイルス残存率は、インフルエンザA型の場合、乳幼児15.3%、生徒3.1%、無治療者30.0%となっています。これでは、一律に「発症後5日を経過した後はウイルスがほとんど検出できない」とは言えないと思います。

―― 無治療者の30.0%という結果は、驚きの数字です。

廣津 無治療者を含めて、発症後の日数を基準にして出席停止期間を定めることには反対です。なお、B型ではそれぞれ14.6%、0.8%、12.5%となりました。また、発症7日後の残存率は、A型でそれぞれ2.4%、0.0%、7.7%となり、B型ではそれぞれ2.3%、0.7%、9.1%となっています。

 このような年齢の差および治療の有無によるウイルス残存率の違いに加え、ウイルスが発症後いつまで検出されるかは、治療開始時期に大きく影響されますので、今回、「発症したあと5日を経過」を加えたことには疑問が残ります。

―― 「発症したあと5日を経過」を新たに追加する根拠が揺らいでいるということですか。ではこれまでの基準だった「解熱した後2日を経過するまで」には、根拠となるデータはあるのでしょうか。

廣津 図3をご覧ください。「解熱後いつまでウイルスを検出するか」ですが、たとえば解熱3日後のウイルス残存率は、A型では乳幼児31.5%、生徒17.3%、無治療28.6%、B型では乳幼児20.5%、生徒5.7%、(無治療は症例が少ないため不明)となりました。解熱4日後の残存率は、A型ではそれぞれ、12.9%、4.2%、16.7%、B型ではそれぞれ4.8%、0.8%(無治療は無)でした。

 つまり、解熱後、無熱状態を2日間家庭で過ごした後の登校までには、解熱後3日近く経過している場合が多いですから、ウイルス残存率は3日後を参照することで充分と思われます。また実際に、3年間にわたり延べ7小学校を調査した結果では、2日間の出席停止期間を守った児童からの感染は起きていないことを認めています。

―― 保育園や幼稚園に通う幼児の場合は「解熱した後3日を経過するまで」と、1日長く設定されました。

廣津 「年齢によるウイルス残存率の違いについて」ですが、乳幼児と生徒のウイルス残存率の差をそれぞれのグラフで見てみますと、「発症後」や「治療開始後」より、「解熱後」の方が小さいことが分かります。

 なお、詳細は、乳幼児と生徒のウイルス残存率の差(ポイント)は、発症後4日、5日、6日、7日で、A型の場合それぞれ20.6、24.0、12.2、2.4、B型では37.0、36.9、13.8、1.6でした。

 治療開始後3日、4日、5日、6日で、A型では24.1、26.9、14.9、5.8、B型では23.2、29.0、17.5、1.6でした。

 一方、解熱後1日、2日、3日、4日で、A型では−7.7、9.5、14.2、8.8、B型では4.6、19.2、14.8、4.0となっています。

 解熱後のデータは、解熱とウイルス残存率は比較的相関していることを示しています。これはとりもなおさず、「ウイルスが少なくなることにより解熱していく」ことを意味し、熱の経過はウイルス量を反映していると思われます。また、乳幼児と生徒のウイルス残存率の差は、「解熱後」が小さいわけですから、解熱後の出席停止期間を年齢によって変えることには違和感を覚えます。

―― 解熱後のウイルス残存率は、乳幼児、生徒、成人、無治療とも似たようなカーブをたどっています。解熱後4日では、すべての群で20%を切っています。

廣津 繰り返しになりますが、「解熱後の出席停止期間」を年齢によって変える必要性は低いということです。むしろ、図1で見たように、「治療開始後のウイルス残存率」には年齢差がありましたから、治療開始後の日数を基準とする場合は、年齢の違いで変える意義があります。

―― 治療開始5日後における生徒でのウイルス残存率は、治療開始6日後における乳幼児のウイルス残存率と近似していました。

廣津 私は、出席停止期間を見直すのであれば、これまでの基準に、治療開始後の日数を加えるべきだと考えています。発症からの日数では、さきほどお話したように、「発症の起点」が不明確になりがちです。また、年齢あるいは治療の有無で、同じ発症後の日数でもウイルス残存率に差があります。それよりは、医療機関を受診し、インフルエンザの治療を開始した日を起点とする方が明確で分かりやすいはずです。

 以上の検討から、出席停止の期間の基準としては、「インフルエンザにあっては、解熱した後2日を経過し、かつ、治療を開始した後4日(幼児にあっては5日)を経過するまで」を提唱したいと思います。