国立病院機構九州医療センター名誉院長・柏木征三郎氏

 老人ホームや介護施設などを中心に、インフルエンザの集団感染が相次いで発生。高齢者の死亡例も報じられている。国立病院機構九州医療センター名誉院長の柏木征三郎氏は、「予防投与」の重要性を強調。タミフル耐性化が問題視されていることには、リレンザも使用するなど知恵を働かせるよう訴えた。また、急浮上した学校の出席停止期間の問題については、「見直しの前提に誤解がある」とし、現行の「解熱後2日間」のままでいいと語った。長年にわたりインフルエンザ研究に取り組んできた柏木氏に、今シーズンに浮かび上がった課題についてうかがった。

―― 老人ホームや介護施設などを中心に、インフルエンザの集団感染が相次いで発生しています。残念ながら、高齢者の死亡例も報じられています。

柏木 新型インフルエンザが発生した2009年のシーズンは、死亡が200例余と少なかったのですが、今シーズンは近年にない超過死亡が出るのではないかと心配しています。

 もう一度、確認しておきたいのは、2009年のときはH1N1型の大流行で、今シーズンは流行株の主流がH3N2型だという点です。2009年のときは、高齢者の中にH1N1pdm09に対してある程度の免疫力を持っている人がいたため、高齢者での流行が少なかったのです。でも今シーズンは違います。H3亜型(A香港型)は、変異も早く、ワクチンを打っていても罹患する場合があるのです。つまり、高齢者も罹りやすい。

―― 神奈川県警友会けいゆう病院小児科の菅谷憲夫氏も、高齢者施設内の集団発生が相次いでいる理由の1つとして、「ワクチンとの反応性が低いウイルス株が流行している可能性」を挙げていました。

柏木 ワクチンを打っていても罹患する危険性が高い以上、高齢者施設内で集団感染が確認された場合には、積極的に抗インフルエンザ薬の予防投与をすべきであると強調したいです。

―― タミフル耐性ウイルスの発生を危惧して、施設側が抗インフルエンザ薬の予防投与を躊躇しているのではないか、との指摘もあります。

柏木 確かに、予防投与をしていた患者から、ある割合で耐性ウイルスが確認される場合があります。しかし、耐性ウイルスの発生率が数パーセントと低く、また耐性ウイルスが周囲の人々に感染しにくいことを考慮すると、高齢者施設や病院など、ハイリスク患者が多いところで集団感染が発生した場合は、予防投与による感染防御に踏み切るべきです。タミフル耐性ウイルスの発生が心配ならば、リレンザの使用を考慮した方がいい。決して躊躇すべきではないのです。

学校の出席停止は「今のままでいい」

―― 学校の出席停止期間についてうかがいたいと思います。文部科学省は現行の「解熱後2日間」から「発症後5日を経過し、かつ、解熱後2日間」に改める方針だと報じられています。

柏木 私は今までどおりでいいと思います。現行の「解熱後2日間」という基準で十分です。

―― 解熱時から3日目でも、A型で12%、B型で15%の患者さんから残存ウイルスが確認されたという報告があります。これも、見直しの根拠の1つとなっているようです。この10%強の患者さんから、ほかの人へと感染が拡大していくのではないかという心配があるわけです。

柏木 図1をご覧ください。これも日本臨床内科医会の研究成果の1つですが、インフルエンザ発症(発熱)後のウイルス残存が確認された患者さんの割合を経時的にみたデータです。抗インフルエンザ薬で治療しなかった場合と、治療した場合で比較しています。治療群はさらにA型とB型に分けてみています。

図1 インフルエンザ発症(発熱)後のウイルス残存が確認された患者の割合(文献1)

―― 治療群でも、発症後5日で20%ぐらいの患者さんからウイルスが確認されています。6日後でも10%近くの患者さんにウイルスが残っているようです。

柏木 この残っているウイルスですが、患者さんの鼻汁中のウイルスをインフルエンザ迅速診断キットを使って検出したものです。つまり抗原として確認したわけで、あったかなかっただけをみたものです。なにを言いたいかというと、残存ウイルスの量あるいは活性(感染力)を確認したものではない、という点が重要です。

―― だからといって、残存ウイルスに感染力がないとまでは言えないのではないでしょうか。

柏木 図2を見てください。これはタミフルによる治療群とプラセボ群で、ウイルス力価を比較したものです。タミフル治療群のグラフを見ると、ウイルス力価が治療後に速やかに減少しているのが分かります。治療後36時間では、ウイルス力価がほとんどゼロとなっています。プラセボ群では108時間でようやく、このレベルに達していますから、治療群ではウイルス残存期間も短縮されることが確認されたのです。

 しかし、最近の新聞やテレビなどの報道では、「抗インフルエンザ薬は熱を早く下げるが、ウイルス自体はあまり減らさず、ウイルスの残存期間は短くならない」などという指摘がありました。これは明らかに間違いです。抗インフルエンザ薬は、熱も下げるし、ウイルスも減らすし、ウイルス残存期間も短縮するのです。

図2 ウイルス力価の経時的変化(文献2)

―― 図1と図2をあわせて考えると、発症後5日時点で治療群でもウイルス残存患者が20%ほどいるわけですが、これらの患者さんから見つかるウイルスの感染力は、かなり小さいと考えていいのでしょうか。

柏木 ウイルス残存患者から分離したウイルスの感染力については検証しなければなりませんが、私は、ほとんど問題ないのではないかと思っています。

―― こちらも日本臨床内科医会の研究成果の1つですが、複数の小学校のクラスにおける感染様式を調査したところ、学校保健法で定められた解熱後2日間の出席停止期間を経た学童からの感染は少なかったという結果が出ています。

柏木 むしろ、現行の「解熱後2日間の出席停止」を徹底できていないという現実があるのだと思います。私が言いたいのは、しっかりしたデータに基づいて議論をしてほしいということです。

―― 出席停止期間が延長されるとなれば、共働きの家庭や母子あるいは父子家庭などには、大きな影響が出ることになります。病児保育などの支援を広げることも、あわせて考えていく必要があると思います。

柏木 文部科学省だけの問題ではないのです。政府全体の課題と認識して、議論してもらいたいものです。

■参考文献
1)Effects of antiviral drugs on viral detection in influenza patients and on the sequential infection to their family members—serial examination by rapid diagnosis (Capilia) and virus culture(International Congress Series. 2004;1263:105-108)
2)Use of the Oral Neuraminidase Inhibitor Oseltamivir in Experimental Human Influenza: Randomized Controlled Trials for Prevention and Treatment(JAMA.1999;282[13]:1240-1246)