厚生労働省新型インフルエンザ専門家会議(議長;岡部信彦・国立感染症研究所感染症情報センター長)は1月18日、新型インフルエンザ対策ガイドラインの見直しに対する意見書案をまとめた。その中で、抗インフルエンザ薬の備蓄については、「従来どおりタミフルおよびリレンザを備蓄」するよう求めた。新薬であるラピアクタとイナビルについては、「有効期間が短く備蓄に適さない」との評価だった。

 意見書案はA4サイズで100ページにも及ぶ大作で、会議のメンバーが4班に別れ、昨年末に集中的に討議しまとめあげた。国が2011年9月に新型インフルエンザ対策行動計画を改定し、引き続き新型インフルエンザ対策ガイドラインの見直しを進めていることから、これに対して専門家の立場から意見を集約したもの。ただ、18日の会合では、意見書に盛られた事項について「主語がなく責任の主体が明確でない」などの指摘があり、週明けの23日までに各委員からの意見を集約し直すこととなり、正式な意見書としての公表は見送られた。

 意見書案で注目されるのは、行動計画などで示された適切な対策への切り替え(弾力化)の判断材料として、ウイルスの病原性を全面に押し出した点だろう。「病原性については数値化は困難」としつつも、スペイン・インフルエンザ(致死率2.0%)水準を「病原性が高い」、アジア・インフルエンザ(致死率0.53%)を「病原性が中等度」、季節性インフルエンザ水準を「病原性が低い」とすると言及し、弾力化のための一定の目安を示した。なお、感染力については、「数値化して対策を区分することは困難」との判断を示した。

 今後は、「病原性が高い」「病原性が中等度」「病原性が低い」の3段階に応じて、様々な対策が弾力的に実施される公算が大きい。

 この考え方が如実に現れたのは、水際対策への意見書案だ。病原性の程度に応じて5つのパターンを提案し、「対策のやりすぎ、あるいはやりなさすぎ」が起こらないよう求める内容となっている。

 感染拡大防止については、国内発生の早期および国内での感染が拡大するまでの間は、学級、学年、学校閉鎖の実施基準を「欠席率10%程度へ引き下げる」よう求めた。同時に、閉鎖の実施期間を「1週間程度に延長」することも盛り込んでいる。

 医療体制については、「発熱外来」を改め「帰国者・接触者外来」とし、対象の明確化を図るよう求めた。「帰国者・接触者外来」を実施する目安や一般医療機関の対応を切り替える際の判断基準なども提示し、より具体的で実践的な意見となった。

 抗インフルエンザ薬については、備蓄のあり方で、新たに承認されたラピアクタやイナビルは「現時点で有効期間が短い」との判断から備蓄の対象に加えられなかった。これまでどおり、タミフルとリレンザの備蓄を継続するよう求めている。なお、委員の中には、抗インフルエンザ薬の耐性ウイルスの出現も想定しておくべきとの指摘もあり、タミフルとリレンザの備蓄割合の見直しも必要になると思われる。

 このほか、ワクチンでは、全国民に対する早期接種を実現するためには、集団的接種の実施を前提とした10mLのマルチバイアルの供給が欠かせないとの判断を示した。

 プレパンデミックワクチンについては、現在備蓄しているH5N1株を用いたプレパンデミックワクチンを前提とした意見書案となった。その上で、H5N1株を使ったプレパンデミックワクチンを臨時接種する場合は、「発生した新型インフルエンザウイルスの亜型が異なったり(H5N1以外だった場合)、ワクチンとの間で抗原性が大きく異なるなどのため、ワクチンの有効性が期待できない場合」は、政府対策本部の責任で「プレパンデミックワクチンの接種を行わない」と明示した。

 なお、H5N1株からの新型ウイルス発生を想定し、「発生時に迅速な接種が行えるよう、必要量を予め製剤化し備蓄するべき」との文言も盛り込まれた。

 今回の意見書案は、各ガイドラインごとに今後の検討課題を追記した点も評価される。今後のガイドラインに、今回の意見書案がどこまで反映されるのかはもちろん、検討課題に対する解決策がどこまで現実化するのか、今後とも注意深く見ていく必要がある。