直ちに取るべき対策は解熱

 目の前の患児がCPT-IIの遺伝子多型かどうかは、日常診療での把握はむずかしい。熱不安定性表現型の患児は、日常生活においては異常がみられないからだ。

 直ちに取るべき対応は、解熱ということになる。木戸氏も「解熱剤の使用も考慮し、早急に熱を下げるべき」と指摘する。

 通常のCPT-IIの細胞内半減期は18時間であるのに対して、熱不安定性表現型CPT-IIの半減期は6時間に短くなっていた。即ち細胞は弱い酵素を補うために6時間で半分の酵素を入れ替えて定常状態を保っているのである。

 この酵素に、40〜41度のストレスが数時間変わっただけで、急速に酵素は失活することが明らかになっている(図2)。遺伝子多型の種類、組み合わせなどで、失活の速度にばらつきはあるものの、1〜2時間で急速に落ちていくことを考えると、40〜41度の高熱になったら直ちに熱を下げる処置をとるべきなのだ。

図2 インフルエンザ脳症患者のCPT-II遺伝子多型と熱失活(出典;Yao,D.et al.Human Mutat.,29:718-727,2008)

 一方、根本的な対策として考えられるのは、エネルギー代謝障害の正常化だ。治療の決め手になると考えた木戸氏らは、様々な治療薬を探索し、脂質異常症の治療薬の1つであるベザフィブラートに治療の可能性があることを突き止めた。最近Molecular Genetics and Metabolism誌に発表した論文では、健常人およびインフルエンザ脳症の患者らの線維芽細胞を使い、ミトコンドリアのエネルギー代謝に及ぼすベザフィブラートの影響を検討。インフルエンザ脳症においては、ベザフィブラートにエネルギー代謝障害を正常化する可能性があることを明らかにした。まだ細胞段階の研究結果ではあるが、インフルエンザ脳症の新たな治療法につながる成果として注目される。

 遺伝子多型の解明から、インフルエンザ脳症の発症機序の一端が明らかになり、エネルギー代謝障害の正常化を狙った治療法の開発も見えてきた。また、インフルエンザ以外の感染、さらには熱中症でも、CPT-IIの遺伝子多型の存在が分かってきた。今後とも、エネルギー代謝という視点からインフルエンザの重症化の機序に切り込む木戸氏らの研究成果に期待したい。