最近は一般の話題に上ることも少なくなっている鳥インフルエンザだが、国際連合食糧農業機関(FAO)がそんな空気に一石を投じ1)2)、緊張が広がっている。鳥インフルエンザの発生件数が減少から底打ち反転し、この秋冬にも大流行するかもしれないと防御体制の強化を要請しているのだ。

 以下はその要点だ。

* 2003年以来世界中で流行している鳥インフルエンザ、発生国数は2006年の63カ国をピークに減少し、現時点では6カ国になっている。

* 発生件数は、年間4000件をピークに302件まで減少したものの、2010/2011年には800件近くにまで反転上昇している。

* 感染が拡大するメカニズムとして、渡り鳥の長距離移動でウイルスが運ばれ、さらに養鶏関係者などの動きで一帯に拡散する。

* 中国とベトナムでは、既存のワクチンが無効な遺伝子変異株が広がっており、ベトナムは今年のワクチン接種を見合わせた。ベトナムの流行は周辺のカンボジア・タイ・マレーシアさらには朝鮮半島や日本にまで影響を及ぼす可能性がある。

* ここ数年間発生のなかった国でも見られるようになっている(イスラエル・パレスチナ・ブルガリア・ルーマニア・ネパール・モンゴル)。

* 今年秋冬には、H5N1の大流行の可能性も考えられる。現在鳥インフルエンザが強く残っているバングラデシュ、中国、エジプト、インド、インドネシア、ベトナム以外の国でも安全とは言えないとして、防御体制およびサーベイランスの強化を要請。

近畿医療福祉大学 勝田吉彰氏

 これを受けて世界に波紋が広がっている。英BBCは詳報を載せ3)、香港紙は中国本土から戻って発症した59歳女性から変異型H5N1が検出されたことも引用して農家に警告を発している4)。マレーシア政府はきちんと反応し、同国内におけるヒト感染が出ていないことを示しリスクコミュニケーションを行った5)。フィリピン紙は(遺伝子変異型H5N1の死亡率をいきなり60%と決めつけるのは気になるものの)家禽の密輸危険性など指摘しながら警告している6)

 日本政府もマスコミも、今は政治の騒乱の中で忙しく、鳥インフルエンザにまで頭が回りにくいのだろうが、一般社会にぜひ広く知っていただきたい現実である。


■参考資料
1) 鳥インフルエンザが再び広がりをみせる
新しいウィルス株に対する防御態勢とサーベイランスの強化を要請

2) UN warns of new bird flu outbreak
3) Bird flu fear as mutant strain hits China and Vietnam
4) New bird flu strain sparks warning for chicken farms
5) Malaysia brushes off UN warning on bird flu resurgence
6) DOH: New bird flu strain deadlier

 過去のパンデミック時と今回の大きな違いの1つは、インターネットによる情報提供が力を発揮していることだろう。2003年のSARSの流行時に、北京で日本大使館医務官だった勝田吉彰氏(近畿医療福祉大学)は、「ちぎっては投げ方式でこまめに情報提供をすることで、現地の日本人社会の不安を和らげた」と振り返る。新型インフルエンザが騒がれるようになってからは、このときの経験を元にブログ「新型インフルエンザ・ウォッチング日記」を立ち上げ、日々情報を発信し続けている。最近はツイッター(http://twitter.com/tabibito12)でも情報発信に取り組んでいる。勝田氏に「今、忘れてはならないこと」を綴っていただく(「パンデミックに挑む」編集)。

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