近畿医療福祉大学の勝田吉彰氏

 南半球はこれから気温が下がり、インフルエンザの流行期に入ってゆく。今季はオーストラリアがどうなるのか目が離せない。昨年のワクチン接種後に起こった副反応騒動が尾を引き、接種率が大きく落ち込んでいるところに、感染者数が例年になく早いペースで立ち上がってきているのだ。

 昨年のオーストラリアは、ワクチン接種後副反応が子を持つ親たちを震え上がらせた。CSL社製Fluvaxの接種を受けた子ども達に、通常予期される5倍の高率で発熱・けいれん症状が出現し、犠牲者も発生してしまった1)。このため、5歳未満の小児には接種が見合された。原因究明には時間を要したが、同社製ワクチン接種群でサイトカイン(IFN-α、IL-1β、IL-6、IL-10、IP-10、MIP-1α)高値が確認された2)。さらに保健当局も、今季は子どもには同社製は使用せず他社製を使用することにした3)。つまり、ある程度原因も明らかになり対策もたてられ、理論上(おそらく実際にも)昨年のような騒動は発生しない態勢になった。

 しかし、世の親たちは納得しない。西オーストラリアではワクチン接種率が78%も激減してしまった3)。このボイコットの動きは全土に拡大しそうで、麻疹・風疹・流行性耳下腺炎にまで波及しまいかと医師たちは気をもんでいる3)

 昭和の時代、日本でもインフルワクチン接種後副反応で接種率が激減し、わが国のワクチン製造態勢が悲惨なことになってしまった。こうした事情については、2009年パンデミックで広く知られるところとなった。同業者と話していると、これは「マスコミ報道のせい」で「副反応の補償制度がお粗末なせい」だという論をよく耳にするし、実際それは妥当でもあるのだが、それがすべてではない。世の親たちの反応というのもまた、国境を越えて共通するものがあるのだ。

 こうしてめっきり手薄になってしまった今季のオーストラリア免疫事情だが、ここで気になる動きがある。インフルエンザ患者数が前年同期比5倍のロケットのような勢い(skyrocketと表現5))で激増していて、ホラーなシーズン(horror flu season)という表現で報道されているほどだ6)。こちらの原因は異常気象で気温が低いことにある模様。

 例年になく手薄な態勢のところにskyrocketの勢いでインフルエンザが攻め込んでくるhorrorなシーズン、そんなオーストラリアがこれからどうなってゆくのか。日本人の在住数も多いこの国、他人事ではなく注目してゆこう。今後の帰趨によっては我々のシーズンに向けて胸に刻まなければならない教訓も色々出てくるかもしれない。

■参考
1)Flu jab fears grow as toddlers rushed to hospital
2)Trivalent influenza vaccine and febrile adverse events in Australia, 2010: Clinical features and potential mechanisms
3)Safer vaccines but a big drop in immunisations
4)Fears parents'flu boycott will spread
5)Flu cases skyrocket in Queensland: AMA
6)Doctors brace for influenza epidemic

 過去のパンデミック時と今回の大きな違いの1つは、インターネットによる情報提供が力を発揮していることだろう。2003年のSARSの流行時に、北京で日本大使館医務官だった勝田吉彰氏(近畿医療福祉大学)は、「ちぎっては投げ方式でこまめに情報提供をすることで、現地の日本人社会の不安を和らげた」と振り返る。新型インフルエンザが騒がれるようになってからは、このときの経験を元にブログ「新型インフルエンザ・ウォッチング日記」を立ち上げ、日々情報を発信し続けている。最近はツイッター(http://twitter.com/tabibito12)でも情報発信に取り組んでいる。勝田氏に「今、忘れてはならないこと」を綴っていただく(「パンデミックに挑む」編集)。

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