私たちは2009年にインフルエンザパンデミックを経験した。そこから今回の震災に活かせる教訓はないものかと振り返り、「被災地にあふれ返る流言」「差別の芽」「不安と焦燥」など、役立ちそうな経験を引っ張り出してみた。

差別をどうするか

 辛い立場にある被災者に、さらに追い打ちをかけるような事態が報道されている。福島第1原発周辺から退避して来られた方々に対し、「除染証明」を提示しなければ立ち入りを認めないとか、診療を受け付けないという対応がまかり通っているというのだ1)

 「除染証明」。もちろん科学的根拠なぞなんにもない。でも、どこかで聞いたことはないだろうか。そう、パンデミックの初期に「新型インフルエンザの陰性証明」なる奇妙なものを求める職場が続出し、社会問題となったことを覚えておられる方も多いだろう。まったく既視感だ。パンデミック初期の神戸の人々、そして今回は福島周辺の人々に対して科学的根拠のない無責任な視線が向けられている。

 なぜこのような差別的なものが生まれるのか。人は不安を感じたとき、様々な対処法に走るが、そこには4つのパターンがある(表1)。このうち、「他者を否定して自分を守る」というパターンがある2) 。自分たちとは異なる集団に対し、批難し差別し心の安寧を得る。古くはハンセン氏病、HIV感染者、そして初期のパンデミック。北京のSARS流行でも目撃した。

 ではどうすれば良いのか。まず、「他者を否定して自分を護る」というパターンがあることを啓発することだ。「もし誰かを差別したり遠ざけたりしたくなったら、ちょっと心に手を当ててみてください。あなたが不安なだけではないですか?」。このように問いかけるのである。パンデミックの時も、私自身、当サイトや毎日、産経、神戸の各新聞やTVなどでこのことを主張させていただいた。

 もう1つ、パンデミックを振り返ってみよう。「新型インフルエンザの陰性証明」はなぜ解消したか。厚生労働省のリスクコミュニケーションも一役買った。今も一部が同省HPに残っている3)。きめ細かな情報提供をともなう「権威筋による否定」はある程度の効果を生むことがある。「除汚証明、まったく意味がありません。求めるのはやめましょう」。あらゆるレベルの“権威筋”がそろって呼びかけてくれぬものか、と切に思う。

表1 流言に現れた不安2)

パターン1自分を肯定・守る縁起かつぎ・ジンクスなど
パターン2他者を肯定・守るバディ君に絵葉書送ろう伝説←病気への不安
パターン3他者を否定他者を否定・批難し自己を守る。人種・民族・患者 差別流言等
パターン4自分を否定不安を恐怖として明示・誇張

流言をどうするか

 「また津波が襲ってくるらしい4)」「イソジンガーグルを飲むと良い」などなど、流言、うわさの流布も目につく。パンデミックの時も、北京のSARSの際もさんざん経験してきたところだ。

 流言が流れる量は、「重要さ」と「あいまいさ」の積に比例する(オルポートとポストマンの法則)。「重要さ」の部分は動かしようがないから、「あいまいさ」の部分をいかに減らすかがカギとなる。“ちぎっては投げ式”のこまめな情報提供が望まれるゆえんだ。

 ここで、パンデミック初期に比べて有利なのは、ツイッターの普及だろう。ツイッター上では、放射線科医や感染症医、精神科医らによるこまめな情報提供が行われている。“シーベルトネタ”を含めて新聞より数日早かったりする。ツイッターを日々使いこなし、「信頼できる発信者(少なくともデマを複数回流してない発信者)」を選んでタイムラインを構成し、「ちぎっては投げ式の情報提供を受けている状態」にするのは有効だ。

 その他、「感染予防策としての手洗い・咳エチケット・うがい」「40%欠勤想定のBCP」「循環備蓄はじめ備蓄のテクニック」等々、使える経験はいろいろありそうだ。いまこそ、思い出してみよう。

■参考文献
1)福島第1原発:放射線検査「義務付け」 偏見で過剰反応
2)早川洋行:流言の社会学 形式社会学からの接近 p68-73 青弓社
3)新型インフルエンザ(A/H1N1)に関する事業者・職場のQ&A
4)東日本大震災:暮らしどうなる?/6 デマに惑わされない

 過去のパンデミック時と今回の大きな違いの1つは、インターネットによる情報提供が力を発揮していることだろう。2003年のSARSの流行時に、北京で日本大使館医務官だった勝田吉彰氏(近畿医療福祉大学)は、「ちぎっては投げ方式でこまめに情報提供をすることで、現地の日本人社会の不安を和らげた」と振り返る。新型インフルエンザが騒がれるようになってからは、このときの経験を元にブログ「新型インフルエンザ・ウォッチング日記」を立ち上げ、日々情報を発信し続けている。最近はツイッター(http://twitter.com/tabibito12)でも情報発信に取り組んでいる。勝田氏に「今、忘れてはならないこと」を綴っていただく(「パンデミックに挑む」編集)。

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