近畿医療福祉大学の勝田吉彰氏

 ここ最近、新聞にエジプト情勢が載らない日がない。非常に気になる。「鳥インフルエンザ」監視体制がどうなるかと。ヒト感染や鳥感染の発生をキャッチして確認して国際社会に知らせるルートが、この先確保されてゆくのかと。

 今回のエジプト騒乱が始まって早々、ムバラク前大統領は「全閣僚の罷免」を発表した。全閣僚なら当然、保健大臣も農業大臣も含まれる。鳥インフルエンザの発生を拾い上げてWHOやOIEに報告するルートはどうなってしまうのかと思ったが、2月2日付でヒト感染例の情報がWHOのホームページに載り、この時点ではとりあえずルートが開いていることを確認できて安堵した。

 2月12日、イタリア南部の島にチュニジア難民が大勢押し寄せイタリア政府が非常事態宣言を出すという出来事があった。ここにも1つの示唆がある。一見平和に、比較的少ない流血で政権崩壊に至ったように見えるチュニジアでも、近隣の政府が非常事態宣言を出さねばならぬほど多数の難民が発生する背景には、1つにはこれまで民衆の間に鬱積した権力側に対する激しい想いがある。この国は筆者が前職外務省医務官時代に、アルジェリア定期出張の経由地として、毎年3〜4回は泊った場所で、現地職員の皆さんには大変お世話になった。政権に関する話題については、彼らの口が重かったのを思い出す。政権崩壊で“重し”が取れれば、これまで政権側に属し“上から目線”で行動していた「お役人」たちがどういうことになるか想像に難くない(各種お役人の“上から目線”ぶりは、空港に10分もいればすぐ分かるのがアフリカ大体どこでも共通している)。彼らが難民化すれば、人材流出そして基本的社会システムへの影響(崩壊とまでは言わないにしても)へ発展する。

 エジプトにも同様の事態が懸念される。筆者はこの国とは、やはり前職時代、スーダン在勤時のクーリエ出張やパリ在勤時の緊急移送手配といった形で縁があった。カイロの病院で直観的に気になったのは、階層による差であった。英国留学経験のある院長は、われわれと同じ常識に立脚しスムーズに会話が成り立った。安心して病棟に向かうと、清潔感覚も、危険感覚も異なるコメディカルスタッフの姿に、かなりのギャップを感じたものだ。肌で感じたエリート層とそれ以外との溝。それでも一定の秩序の中で均衡を保ってきたものが、今回の政変でどう変化するのか。現に、政権崩壊後も様々なストやデモの情報が報じられている。

 鳥インフルエンザの発生(ヒト感染も鳥感染も)をキャッチして、治療して、標本を検査してH5N1を確認して国際社会に報告する。今はかろうじて回っているこの体制が続いていけるのか。この体制を支えている保健省や農業省のお役人はどうなるのか。たとえば地方の「○○村」の兄弟間でひっそりヒトーヒト感染が始まったとき、それをキャッチできる体制が続くのか。

 重大な関心をもって注目していきたい。

 過去のパンデミック時と今回の大きな違いの1つは、インターネットによる情報提供が力を発揮していることだろう。2003年のSARSの流行時に、北京で日本大使館医務官だった勝田吉彰氏(近畿医療福祉大学)は、「ちぎっては投げ方式でこまめに情報提供をすることで、現地の日本人社会の不安を和らげた」と振り返る。新型インフルエンザが騒がれるようになってからは、このときの経験を元にブログ「新型インフルエンザ・ウォッチング日記」を立ち上げ、日々情報を発信し続けている。最近はツイッター(http://twitter.com/tabibito12)でも情報発信に取り組んでいる。勝田氏に「今、忘れてはならないこと」を綴っていただく(「パンデミックに挑む」編集)。

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