日本臨床内科医会インフルエンザ研究班班長を務める河合直樹氏

 50週(12月13日〜19日)のインフルエンザ定点当たり届出数が全国平均で1人を超え、全国的にインフルエンザの流行期に入った。新型インフルエンザA/H1N1pdm)発生から2回目となる2010/11シーズンは、今のところA香港型が先行し、加えてA/H1N1pdmやB型ウイルスの検出も報告されている。日本臨床内科医会インフルエンザ研究班班長を務める河合医院(岐阜市)の河合直樹氏(写真)に、昨シーズンの特徴と今後へ向けた診療のポイントを伺った。

―― A/H1N1pdmの第2波が心配された今シーズンですが、今のところA香港型ウイルスの検出が優勢のようです。

河合 A/H1N1pdmについては、まだ罹患していない人や罹患した人でもウイルス自体が変異すればまた罹る可能性はありますから、今後も注意が必要です。それから、現在主流となっているA香港型は、季節性の中でも比較的重症感の強いタイプですので、早期にインフルエンザと診断し、治療を開始することが必要です。

―― 秋田ではお年寄りが犠牲になりました。

河合 図1は、2002/03シーズンの迅速診断A型の症例について肺炎の合併率を見たものです。このシーズンは、A型はほとんど100%が香港型でした。高齢者ほど、特に80歳以上では肺炎合併率が13%と高くなっています。ですから、今シーズンは、高齢者の方々の感染には留意しなければなりません。

図1 肺炎合併率(2002/03シーズンの迅速診断A型症例。河合直樹、ほか.臨床と研究81:1614-1618,2004)

―― 日本では、A/H1N1pdmによる死亡例が200人余りにとどまりました。一部を除いてほとんどが軽症であったこともあって、インパクトとい点で、「当初言われたほどではなかった」と感じている人は少なくないと思います。

河合 なぜ日本でA/H1N1pdmによる死亡例が少なかったですが、日本で継続的に行われてきたインフルエンザの早期診断・早期治療が功を奏したからだと思います。米国の研究によると、米国で行われた抗インフルエンザ薬による治療は、74.6%の人が受けていました。しかし、発症から48時間以内に開始されている割合が38.5%に過ぎなかったのです(図2)。わが国では、早期診断と発症から48時間以内の治療開始が基本となっていますから、この時間の差が死亡例の差となって現れた可能性が考えられます。もう一度、「早期診断・早期治療」の重要性について強調しておきたいと思います。

図2 米国で行われた抗インフルエンザ薬による治療(河合氏による。出典;Jain S et al: N Engl J Med. 2009;361:1935-44)

―― 日本臨床内科医会インフルエンザ研究班は、今年10周年を迎えられたわけですが、毎年、そのシーズンの解析を行って新たな知見を積み上げてこられました。新型の発生した昨年は、どのような特徴があったのでしょうか。

河合 2009/10シーズンの解析では、A/H1N1pdmは2009年9月以降に大流行し、11月の中下旬にピークを迎えました。年が明けてからは、2010年1月以降は減少し、かつ季節性インフルエンザの流行は若干のB型を除いてほとんどありませんでした。A/H1N1pdmの特徴としては、過去のAソ連型よりも感染者は若年者に多く、一部を除いては軽症でした。この点は、ほかの研究報告と同様でした。

―― ワクチンについては、いかがでしたか。

河合 研究班では今回、新型のワクチンについて前向き試験を実施しました。その結果、A/H1N1pdmのワクチンは、有効率が70%程度と高いことが分かりました。これはこれまでの検討の中でも、3番目に高い水準にありました。安全性についても検討していますが、これまでの季節性ワクチンと同程度で、安全性も高いことが明らかになりました。

―― 抗インフルエンザ薬による治療効果についても検討されています。

河合 解熱時間でみた場合、ザナミビルは過去3シーズンで有効性に差はありませんでした。また、オセルタミビルも新型については、オセルタミビル耐性のAソ連型が流行した2008/09シーズンよりも有効性が高く、2007/08シーズンのAソ連型よりも有効性が高いことも示唆されています(図3)。

図3 抗インフルエンザ薬による治療効果(Kawai N, et al. J Infect Chemother. 2010 Dec 1、電子版)

―― 抗インフルエンザ薬については、治療後のウイルス残存率についても検討されています。

河合 オセルタミビルについては、新型では16歳以上よりも15歳以下で有意に高く、2008/09シーズンのオセルタミビル耐性Aソ連型と同様の結果でした。ザナミビルについても、新型では16歳以上よりも15歳以下で高い傾向にありました。なぜこのような結果だったのかについては、さらに検討を続ける予定です。

―― 冒頭に今シーズンの流行についてうかがいました。今のところA香港型が優勢のようですが、A/H1N1pdm、B型も報告があります。一方で今シーズンは、抗インフルエンザ薬としてラニナミビルが加わり、吸入のザナミビル、経口のオセルタミビル、点滴のペラミビルの4種類が使えるようになりました。治療方針は、どのように考えたらよろしいでしょうか。

河合 これらの抗インフルエンザ薬は、A/H1N1pdm、A香港型、B型のいずれに対しても効果は期待できます。まず、従来のオセルタミビルとザナミビルについてですが、万が一、オセルタミビル耐性のAソ連型が出現した場合やA/H1N1pdmの耐性化が進むようなことがあった場合は、特に小児ではオセルタミビルの使用は回避した方が無難ですが、今のところその兆しはみられず、今シーズンもオセルタミビルの使用は問題ないようです。またザナミビルはどの型でも有効性が高く、安心して使えると思います。

―― 1回の治療で済むという特徴があるペラミビルやラニナミビルについては、いかがですか。

河合 新薬の登場で、耐性ウイルスや重症度、流行しているタイプ、投与日数などに合わせての選択肢が大きく拡がったことは、医師や患者にとって大きなメリットと考えられます。今シーズンから本格的に使用される2つの新薬は、治験では対照薬のオセルタミビルと遜色のない有効性(非劣性)が示されています。使い勝手を含めて、実際に今シーズン使われた臨床現場の医師の評価が待たれるところです(表1)。

 なお、表1のペラミビルの耐性ウイルスのところに「H275Y変異株における感受性低下の報告あり」とありますが、海外からの報告では使用中にH275Y変異した株では変異前に比べてIC50の上昇がオセルタミビルは約300倍であったのに対し、ペラミビルは60倍程度だったとのことですので、臨床上はあまり大きな問題にならないと思われます。

表1 抗インフルエンザ薬の種類(河合氏による)

―― 日経メディカル オンラインのテーマサイト「パンデミックに挑む」で実施した「2010/11シーズン・インフルエンザ治療方針」に関する調査では、これら4種類の抗インフルエンザ薬の使用の優先順位を尋ねたところ、1位はオセルタミビル、2位はザナミビルという結果でした。

河合 使用選択順位がオセルタミビル、ザナミビル、ラニナミビル、ペラミビルの順となっていましたが、大部分の患者が外来通院患者で、かつインフルエンザでは小児の患者割合が多いこと、また使用経験が多い薬剤を医師も患者も選択する傾向にあること、などを考えるとほぼ予想通りと思われます。

 いずれの薬を選択する場合であっても、大事なことは、早期にインフルエンザと診断し、治療を開始することです。これを基本方針に取り組んでいくべきと考えます。

■参考記事
・「2010/11シーズン・インフルエンザ治療方針」に関する調査
使用意向の優先順位、1位はタミフル、2位はリレンザ

☆ テーマサイト「パンデミックに挑む」では、最新情報をお届けする「パンデミック・アラートメール」を配信しています。登録はこちらからどうぞ。