6月から7月。南半球に冬が訪れるこの時期、「南半球のインフルシーズン」と思われているが、新型インフルエンザウイルス(pH1N1)はそんな人間の経験知などあざ笑うような挙動を示している。

 オセアニアや南米をはじめとする南半球では、依然低水準で推移しており、いくつかの国々から散発的に小クラスタの報が聞こえてくるぐらいだ。

 ところが、意外にも、今現在進行形でpH1N1に苦悩しているのはインドだ(注1))。

 モンスーンシーズンの今、ケララ州・マハラーシュトラ州・タミルナードゥー州・アンドラブラデーシュ州・カルナータカ州を中心に流行が拡大し1)、現地メディアの報道は「○○で○人確認」「○△で○歳死亡」といった、“昨年あの頃”に日本の新聞一面を彩ったのと同様の見出しが並ぶ2)

 さらに、空港や駅に「新型インフルエンザ相談デスク」が設けられたり3)、州境に「スクリーニングブース」なるものが設けられ国内水際作戦まがいのことが展開したり4)、保健大臣がメディアに登場して「パニックにならないでください。落ち着いてください」と繰り返し呼びかけるなど5)、まさに“昨年あの頃”を彷彿させる光景が展開している。

 ここ最近経済成長著しく、“中国の次”の日本企業進出ブームも起きそうな往来活発なこの国。われわれも、pH1N1感染者の激増へ心構えはしておこう。

 なお、インドの流行で気になるのは、感染者の症状が変わりつつあり、発熱が目立たず咽頭痛や背部痛が目立ってきているとの情報だ6)。こちらもあわせて頭の片隅に置いておこう。

注)念のため、インドは北半球に位置している。インド以外にpH1N1が報じられているガーナも北半球、コロンビアもごく一部をのぞいて北半球。

新・新型インフルエンザへ向けて離陸したpH1N1

 「インフルエンザは変異しやすいRNAウイルスです。いつどこでどんな変化が起こっても不思議はありません」いやというほど聞かされてきたフレーズだ。

 が、現実には、pH1N1は2009年にわれわれの眼前にデビュー以来、比較的安定していた。

 ところが2010年に入り、遺伝子交雑が確認されたぞ!と、豚と殺場でウイルスを追いかけてきた香港チームが警告を出している7)。現行の(2009H1N1タイプの)NA遺伝子、ヨーロッパ鳥タイプのHA遺伝子、そしてトリプルリアソータントH1N2タイプの遺伝子の交雑という、ややこしい事態が始まっている。行く末に病原性が高まるのか否か、あるいは何も変わらないのか神のみぞ知るだが、冒頭のフレーズをもう一度復唱しながら警戒してゆこう。

■参考
1)http://www.newkerala.com/news/fullnews-140259.html
2)たとえば
http://www.newkerala.com/news/fullnews-141119.html
http://www.deccanchronicle.com/chennai/woman-tests-positive-swine-flu-871
http://www.merinews.com/article/swine-flu-alert16-deaths-reported-in-the-last-1-week-kerala-pune-affected/15825445.shtml
など多数。
3)http://www.hindu.com/2010/06/17/stories/2010061761830400.htm
4)http://www.hindu.com/2010/06/14/stories/2010061460680800.htm
5)http://www.deccanchronicle.com/chennai/don%E2%80%99t-panic-over-flu-says-minister-059
6)http://www.hindustantimes.com/india-news/mumbai/H1N1-virus-has-mutated/Article1-562325.aspx
7)http://www.cidrap.umn.edu/cidrap/content/influenza/swineflu/news/jun1710swine.html

近畿医療福祉大学 勝田吉彰氏

 過去のパンデミック時と今回の大きな違いの1つは、インターネットによる情報提供が力を発揮していることだろう。2003年のSARSの流行時に、北京で日本大使館医務官だった勝田吉彰氏(近畿医療福祉大学)は、「ちぎっては投げ方式でこまめに情報提供をすることで、現地の日本人社会の不安を和らげた」と振り返る。新型インフルエンザが騒がれるようになってからは、このときの経験を元にブログ「新型インフルエンザ・ウォッチング日記」を立ち上げ、日々情報を発信し続けている。最近はツイッター(http://twitter.com/tabibito12)でも情報発信に取り組んでいる。勝田氏に「今、忘れてはならないこと」を綴っていただく(「パンデミックに挑む」編集)。