写真 「私の鶏小屋」コンテストをリポートした鳥インフルエンザの検出と対応を強化するための組織(SAIDR)のホームページ

 夏休み、汽車に乗っておじいちゃんの家に遊びに行ったら、庭で鶏に追いかけられてウワッと泣いた・・・。今を去ること50年近く前、筆者の幼少期は昭和のひとこま。

 裏庭を鶏が走り回る。コケコッコーの声で目覚める。40代以上の読者の方には覚えのある光景だと思うが、これが世界で変化を来たしている。キーワードは、もちろんインフルエンザ。零細裏庭農家で人間と鶏と豚が触れ合って生きていると、遺伝子交雑の舞台となり得て、新型インフルエンザが出現するリスクが懸念されることは繰り返し警告されてきたところだ。

 世界を見渡すと、マーケットで活きた鶏を売って生活の糧を得たり、自宅でさばいてちょっとご馳走を楽しむというのが庶民のささやかなぜいたくになっている国は結構多い。筆者が前職時代に在勤したスーダンやセネガル、中国という国々では実際そういう光景を目にした。

 香港では、事情が変わってきている。活きた鶏を自分でさばいて・・・という人が減り、いまや市場シェアは冷凍もの64%、冷蔵もの30%に対し、活きた鶏はわずか6%になっている。われわれ日本人の魚に対する感覚から類推すれば、フレッシュものに肥えた舌には物足りなさが残るのではと推測されるのだが、鳥インフルエンザをきっかけとして市民の意識は確実に進化している。こうした成果もあり(もちろん、移動制限や市場規制等々香港当局の多大なる努力は言うに及ばず)、市場の家禽におけるH9N2陽性率は5.11%から0.09%へ激減した1)

 エジプトでは、伝統的に、家の屋上で鶏を飼い、子供や主婦がお世話係をするという習慣があった。ここ数年、子供や女性にH5N1のヒト感染が相次いだ。

 で、鶏は専用の鶏小屋で飼いましょうと呼びかける・・・だけじゃなくて、米ジョンズホプキンス大の叡智は素晴らしいアイデアを実行にうつした。「私の鶏小屋」コンテスト。賞品として――コンテストの賞品だから全員分用意する必要がないのがミソ――金貨をいくつか提供したら村人競って張り切り、鶏小屋どんどん建って見事大成功!(写真)2)

 ところが、超先進国たる米国では、逆に裏庭農家が年々ポピュラーになっているという。普通の市民が、アマチュアが、自宅の庭で鶏を走らせている。自然食ブームで、“得体の知れた”卵や鶏肉を食したい向きもあれば、フェアや品評会で見せびらかしたいというモチベーションも存在するそうだ。家庭菜園のノリか。

 こうした事態を憂慮した当局(USDA/APHIS注))が、啓発活動を展開している。その内容にはごく基礎的なものも多く、このようなことを知らない(手とり足とり啓発しなければならない)人々に飼われているという事実に不安も感じる。いわく、「鶏の健康衛生が第一優先です。十分なスペースと環境を整えましょう。エサはゴミが入らないよう覆い、毎日新しいものに取り換えましょう。鳥と遊ぶ前後には石けんで手を洗いましょう。終わったら服を洗濯消毒しましょう。道具を貸し借りしてはいけません。世界には高病原性鳥インフルエンザという病気があってその症状は・・(略)・・」3)

 バイオセキュリティ事情が少しずつ改善してゆく途上国と、少々心もとないアマチュアの手にかかっている超先進国。この、いささか逆説的なコントラストは興味深い。

 pH1N1以後、次なる「新型インフルエンザ」が現れるのは、あるいはひょっとして・・・想像の世界だけにしておきたい。

注)U.S. Department of Agriculture's Animal and Plant Health Inspection Service's

■参考
1)http://www.news.gov.hk/en/category/healthandcommunity/100601/html/100601en05006.htm
2)http://www.saidr.org/en/CHL_BuildYourOwnCage_Dec2009.php
3)http://www.agrimarketing.com/show_story.php?id=60760


 過去のパンデミック時と今回の大きな違いの1つは、インターネットによる情報提供が力を発揮していることだろう。2003年のSARSの流行時に、北京で日本大使館医務官だった勝田吉彰氏(近畿医療福祉大学)は、「ちぎっては投げ方式でこまめに情報提供をすることで、現地の日本人社会の不安を和らげた」と振り返る。新型インフルエンザが騒がれるようになってからは、このときの経験を元にブログ「新型インフルエンザ・ウォッチング日記」を立ち上げ、日々情報を発信し続けている。最近はツイッター(http://twitter.com/tabibito12)でも情報発信に取り組んでいる。勝田氏に「今、忘れてはならないこと」を綴っていただく(「パンデミックに挑む」編集)。