新型インフルエンザの重症化例では、サイトカインに由来するエネルギー代謝不全によって血管内皮細胞障害を引き起こしているとの見解が示された。このため、ATPレベルが重症化例の診断マーカーになる可能性があるという。徳島大学木戸博氏が6月3日、長崎で開催されている日本化学療法学会のシンポジウム「インフルンザの重症化メカニズムと対策」(共催;グラクソ・スミスクライン)で発表した。

 木戸氏は「インフルエンザ感染に伴う体内代謝の変動と感染重症化の機序、診断マーカーと治療」と題して講演に臨んだ。

 なぜ、どのようにしてインフルエンザ感染は重症化するのだろうか? この問いかけから語り始めた木戸氏は、インフルエンザに感染したときに現れる最初の生体反応が炎症性サイトカインの上昇である、と続けた。その上で、こうしたサイトカインがウイルスの感染を阻止する方向に働く一方で、体内代謝、特にエネルギー代謝の流れを大きく変動させていることが明らかになってきたと説明。この変動は生体の適応応答とも考えれるが、代謝変動に対応しにくい遺伝子多型の人あるいは基礎疾患のある人にとっては「致命的」であり、エネルギー代謝の恒常性の破綻につながり、これが原因で重症化につながると、重症化の機序を考察した。

 たとえば、小児のインフルエンザ脳症では、脂肪酸代謝系に潜在的な弱点(遺伝子多型)がある場合、脳の血管内皮細胞のエネルギー代謝障害が高頻度に発現していることが明らかになってきている。

 また、動物実験などの知見から、インフルエンザ感染によるサイトカインの上昇が、全身の血管内皮細胞において消化酵素(トリプシン)などの発現量を異常に増加させることにつながっていることも分かってきている。この異常な増加は、細胞間の物質の漏れを防ぐ分子機構をコントロールしているタイトジャンクションを緩めることにつながり、その結果、全身の各臓器の浮腫や末梢循環不全を引き起こすのだという。

 結局、重症化例では、サイトカインに由来するエネルギー代謝不全によって血管内皮細胞障害を引き起こし、これが浮腫や末梢循環不全、さらには多臓器不全へ進展する主たる原因となっていると考えられるとした。

 木戸氏は、こうした重症化の機序においては、エネルギー代謝が鍵になることから、ATPレベルの変動が重症化例の診断マーカーになりうると結論付けた。なお、木戸氏らは研究用のATPレベル検査キット「XL-ATP kit」を開発しており、株式会社アプロサイエンスから販売している。