4月初旬に開催された日本感染症学会では、新型インフルエンザの発生から1年となるのを機に、これまでの対策を検証し、今後に生かそうとする報告が相次いだ。「発熱外来」も大きなテーマのひとつだった。その実際と課題に入る前に、そもそもの発熱外来の意義とは何だったのかを振り返っておきたい。

 発熱外来は、新型インフルエンザ対策上、発熱相談センターや感染症指定病院と並ぶ医療体制の柱となるものだった(図1)。

図1 発生段階別に展開される医療体制(改訂行動計画より作成)

 発熱相談センターは、第1段階(海外発生期)から登場。各都道府県の保健所に整備され、患者にとっての最初のアクセス先になることを期待された。役割は重要で、かつ、第3段階の終了までの長期にわたっての活躍が求められた。

 発熱外来は、発生の段階に応じて、役割と形態が大きく変化した。第2段階(国内発生早期)になってから、主として感染症指定医療機関等に併設された発熱外来は、「新型インフルエンザの患者とそれ以外の患者を振り分けること」が目的だった。ここで感染が疑われると診断された患者は、入院措置の対象となり、感染症指定医療機関等に入院し、検査や治療観察を受けたわけだ。

 国の改訂行動計画(2009年2月)が発表された以降も、国内発生早期での発熱外来には、疑問の声が根強かった。主な理由は、発熱だけで1カ所に集約するということは、新型インフルエンザによる発熱患者とそれ以外の疾患による発熱患者を同じ空間に集めてしまうことになりかねず、発熱外来を通して感染が広がっていく危険性が高いというものだった。

 発熱外来のもともとの発想は、2003年に発生したSARSへの対策に遡れる。発病以降、どれぐらいの期間、ウイルスを排泄し続けるのかを、通常のインフルエンザとSARSの場合で比べると、SARSではウイルス排泄量のピークは発熱後10日目ごろにピークがきている。このため、発熱後速やかに感染者を発見することは、ウイルスの排泄量の少ない段階での把握につながり、感染拡大を防止する決め手ともなった。事実、ベトナムなどでは、発熱外来の設置が感染拡大防止に功を奏したと評価されてもいた。

図2 SARSとインフルエンザのウイルス排泄量の推移(防衛医大の川名明彦氏の講演より作成)

 しかし、実際の新型インフルエンザの場合はどうだったろうか。新型もまたインフルエンザの1種であることから、図2には通常のインフルエンザが例に挙がっているが、発熱時にはすでにウイルスの排泄量がかなりの量に上っているのが分かる。これでは、SARSのときのような効果は期待できず、かえって発熱というだけで集まってくる新型インフルエンザ感染者ではない人に、感染が拡大していってしまうのではないかという懸念があったわけだ。

 この懸念を払拭する決め手は、発熱外来の前方で活躍する発熱相談センターにゆだねられていた。国内発生早期では、新型インフルエンザ感染者の迅速な疫学調査が可能で、疑い例の発熱なのか、それ以外の発熱なのかは、疫学調査の結果に照らせばかなりの確度で把握できるとの見方だった。

 つまり、迅速な疫学調査と発熱相談センターとの連携で絞りこんだ感染疑い例を発熱外来に集約できれば、感染拡大防止の効果は期待できるだろうといものだ。前提としては、一般市民の理解と協力が欠かせないことは言うまでもなく、いわゆるリスクコミュニケーションのあり方も重要だった。

 「発生患者の接触歴が疫学調査で追えなくなった時点」を迎えると、第3段階(感染拡大期、まん延期、回復期)に突入する。発熱相談センターと発熱外来、感染症指定医療機関等による連携プレーは、第3段階の感染拡大期まで続けられることになっていた。その先はまん延期だが、この転換点は「入院措置を続けていても市中での感染拡大を防ぐことができない」と判断した時点とされていた。この判断は各都道府県が下すことにもなっていた。次回に詳しく触れたいが、この点はかなり修飾された。

 まん延期にいたっては、第2段階(国内発生早期)から続けていた入院措置は解除となる。医療体制にとっては大転換を迎える。これまで感染症指定医療機関等にゆだねられていた入院治療は、原則としてすべての入院医療機関に広がる。発熱外来も、新型インフルエンザの感染疑い例を把握するのではなく、「感染者のうち軽症者と重症者を振り分ける」ことに重点が移る。このため、「形態も地域の特性に応じて柔軟に対応する」となっていた。実際は、まん延期の宣言がないままに「軽症者は自宅療養」へと転換された。

 もうひとつ発熱外来に求められた大事な点は、発熱外来に患者を集中させることで、通常の診療を続ける医療機関の外来がパンクするのを防ぐという意義だ。ここでも、発熱相談センターが「患者の第一歩」の受け皿となり、患者の流れが混乱しないよう導線を保つ機能が求められた。

 医療体制の柱として打ち出されていた発熱外来をはじめ、トリアージに当たった発熱相談センター、入院措置に対応した感染症指定病院などは、実際に機能したのか。今後へ向けた課題は何なのか。次回から、現場で指揮に当たった人々に語ってもらおうと思う。