過剰対応が指摘されている水際対策だが、「今回の検疫ですべての症例を把握するのは困難だった」とする調査結果が報告された。2009年4月28日から6月18日までの機内検疫の実施期間中に入国し発症した渡航歴のある患者は149例で、そのうち潜伏期間中に検疫を通過した症例は124例だったことが明らかになった。国立感染症研究所島田智恵氏らが日本感染症学会で発表した。検疫体制のあり方を見直していく上で、貴重なデータとして注目される。

 島田氏らは、厚生労働省新型インフルエンザ対策推進室が2009年6月25日時点で把握した国内発生症例をもとに、疫学的リンク別疫学曲線による解析を行った。その中で海外渡航歴のある症例の動向を調査し、機内検疫の実施期間(2009年4月28日〜6月18日)に発症した症例について検討を行った。解析の対象は、日本への入国日から数えて6日目までに発症した症例、および入国時の機内で発症した症例とした。

 疫学的リンク別疫学曲線によると、2009年4月28日から6月18日の間に発症した症例は、国内全体で765例だった。特に6月に入ってからは、海外渡航歴のある症例が増加傾向にあった。これは海外での発生数が6月に入って増加、5月に比べ発生国数が2倍、患者数が4.4倍になったことを反映したもの、と演者らはみている。

 着目した渡航歴のある症例で、2009年4月28日から6月18日の間に入国し発症したのは149例だった。これは、国内全体の19.5%だった。

 149例のうち、無症状だった1例と発症日が不明だった1例を除く147例について、入国日から発症日までの日数を調査したところ、新型インフルエンザの潜伏期間中(7日間)に検疫を通過した症例は124例であることが分かった(図1)。渡航歴のある症例の84.4%(124例/147例)、国内発生例の16.2%(124例/765例)だった。

 入国日の翌日に発症した症例が最も多く40例(147例の27.2%)、入国当日が31例(21.0%)、入国後2日目が27例(18.4%)だった。

図1 機内検疫の実施期間中に入国し発症した渡航歴のある患者の発症日(入国日を起点にした分布状況。発表データから作成)

 入国当日に発症した31例の内訳をみると、搭乗前や機内ではなく帰宅後に発症したことが明らかだった症例は19例。残りの12例は、搭乗前または機内で症状があった。そのうち5例については迅速診断検査が行われていたが、すべて陰性だった。また7例については、検疫の対象となる症例定義に当てはまらなかったため検査が行われていなかった。この時点の検疫時に迅速診断検査の対象となる症例定義は、38度以上の発熱または2つ以上の急性呼吸器症状(鼻汁・鼻閉、咽頭痛、咳嗽、悪寒・熱感)があることだった。

 これらの結果から演者らは、発症前から感染性があり、症状が非特異的な呼吸器感染症であり、迅速診断検査の感度が100%ではないことから、「今回の新型インフルエンザにおいては、検疫ですべての症例を把握するのは困難だった」と結論付けた。また、機内検疫の実施期間中に入国し国内で発生した患者のうち、新型インフルエンザの潜伏期間中(最長7日間)に検疫を通過した症例が124例(渡航歴のある症例の84.4%)だった点については、「これらのデータを早期より定期的に収集・解析することで、検疫をいつまで継続すべきかの決定や対策の変更を柔軟に行えるはすであり、今後もこのような検証作業が重要である」(島田氏)と指摘している。